夜10時。「うるさい」とだけ言われて、ドアが閉まる。中学3年生の娘とまともに話したのは、3日前が最後です。流しで手を動かしながら、「もう母親をやめたい」という言葉が頭に浮かびました。自分でも驚いて、すぐに打ち消しました。

その言葉が浮かぶのは、親として失格だからではありません。反抗期の子との毎日で、あなたが一人で引き受けている役が多すぎるというサインです。

先に結論をお伝えします。やめるのは、親であることではありません。いま引き受けている役のうちの1つを、今週だけ降りてください。

反抗期で母親をやめたいと思ったら、降りる役を1つ選ぶ

やることは1つです。自分がいま引き受けている「役」を書き出し、そのうち1つを今週だけ降ります。

手を動かす作業を減らす話ではありません。反抗期の家で重いのは、作業より役のほうです。言い聞かせる、見張る、機嫌を受け止める、言い返される相手になる。この役が母親に集まります。

下の表は、反抗期の家で母親に集まりやすい役です。右の列は、降りた日に起きることです。先に知っておくと、途中で拾い直さずにすみます。

引き受けている役その役で出る言葉降りた日に起きること
言い聞かせ役「そういう言い方はないでしょう」言いかけて黙る。言わなかったことが気になる
見張り役「何時に帰るの」「スマホ見せて」何をしているか見えない時間ができる
機嫌の受け止め役「どうしたの、何かあった?」不機嫌なまま夜が過ぎる
ぶつかり役「お母さんだって我慢してる」言い合いが起きない。こちらが折れたように感じる日がある
連絡係「先生に電話しておくね」本人が自分で言う日と、言わない日が出る
食事・睡眠・体調・安全—降りない。ここは親の仕事のまま

降りる役は、いちばん軽いものから選びます。重い役から降りると、親のほうが不安で拾い直します。

降りると決めた日にやること

  1. 降りる役を1つだけ紙に書く。期間は今週いっぱいにする
  2. 理由は説明しない。「今週は口を出さないでおく」と一言だけ伝える
  3. 空いた時間に、自分のことを入れる。座ってお茶を飲む、先に風呂に入る、どちらでもかまわない

返事が返ってこない日が続いているなら、待つ線と引かない線の分け方を中学生の反抗期はほっとくべきかどうかでまとめています。小学生のうちから言い合いが増えている場合は、小学生の反抗期と暴言への2段階の対応が先の目安になります。

今日やってみること

今夜、上の表を見て、自分が引き受けている役に丸をつけてください。丸が3つ以上ついたら、いちばん軽い1つに印を足します。

「やめたい」と思うのは、応酬の相手役を一人で続けているから

やめたいと思うのは、気持ちが弱いからではありません。反抗期の家では、応酬の相手役が母親に固定されます。同じ相手と、同じやりとりを、毎日繰り返すことになります。

重さの出所は、3つに分かれます。

  • 報われなさ。やったことが礼では返ってこない
  • 情報が入らない。口をきいてもらえないので、心配だけが残る
  • 一人で判断している。家の中に、相談できる相手がいない

見落とされやすいのは3つめです。こども家庭庁が公開している「体罰等によらない子育てのために」は、保護者の負担の背景の一つとして「周囲に相談したり頼りにできる人がいない」ことを挙げています。

つまり、重さの一部は子どもではなく、抱え方から来ています。相手役を一人で続けている状態そのものが、負荷になります。

腹が立つ自分を、責めなくてよい

反抗期の子に腹が立つのは、自然な反応です。距離が近い相手の言葉は、そのまま刺さります。「むかついた」と思った自分を、親として欠けていると読まないでください。

同じ資料は、やり合わない選択も挙げています。「重要なことでない場合、今はそれ以上やり合わない、というのも一つの方法かもしれません」。

平らに言えば、大事な話でなければ、その場で決着させなくてよいということです。役を降りることは、この一文の延長線上にあります。

今日やってみること

今夜、言い返したくなった言葉を1つ、口に出さずにスマホのメモに書いてください。書いたら画面を閉じて、その話はそこで終わりにします。

降りることと放任は違う。降りる役と、降りない役の線

降りてよい役と、降りない役があります。線は1本です。その役を降りて、けがや病気、お金の問題につながるかどうかです。

食事、睡眠、体調、安全、お金。ここは最後まで親の仕事です。学校との最低限の連絡も残します。

降りた役が、実は本人の分まで握っていた役だったのか迷うときは、過干渉かどうかのセルフチェックの「誰が決めたか」の仕分けが使えます。

一方で、言い方の是正、機嫌の管理、応酬の相手役は降りられます。どれを降りても、本人の体は傷みません。

降りるのは役。家を出ることではない

降りるのは役であって、家を出ることではありません。黙って家を空けると、子どもは理由を自分で埋めます。多くの場合、自分のせいだと埋めます。

休みたいときは、行き先と戻る時刻を伝えてから出てください。どこかに泊まる日も同じです。

物に当たる、家を出ていく。こうした出方が重なっているときは、反抗期が激しい子への事前の決め方を先に読んでください。

ぶつかり役を降りる
言い聞かせ役を降りる
見張り役を降りる
本人の領域が本人に戻る
降りる順番。左から1つずつ進む。次に進むのは、前の役に戻らなくなってから

今日やってみること

今夜、紙に線を1本引いて、左に「降りない役」、右に「降りる役」と書いてください。食事と睡眠と安全は、先に左へ入れておきます。

降りた数日に起きること。うまくいかないとき

降りた直後に、家の空気が良くなるとは限りません。最初の数日は、むしろ落ち着かないことが多いものです。

子どもの側から見ると、毎日あった反応が急に止まります。確かめるために、強い言葉が一度増えることがあります。ここで応じると、役に戻ります。

逆に、何も起きないこともあります。礼も文句もなく、今までどおりに見えます。親は効いていないと読んで、数日で拾い直しがちです。

手ごたえは、子どもの表情で測らないでください。測るのは、自分の側です。今週降りられた役の数と、座っていられた時間を数えます。

いつまで続くのかの見通しは、反抗期はいつからいつまで続くのかのページで、年齢ではなく中身の変化で見る方法を整理しています。

「見捨てられた」と受け取らせないために残すこと

役を降りることと、関心を引き上げることは別です。役は降りても、次の3つは変えずに続けてください。

  • 挨拶と、食事に呼ぶ声かけ
  • 聞かれたら答える位置に座っていること
  • 用件だけは、短く一度伝えること

この3つが残っていれば、降りたことは見捨てたことになりません。子どもが確かめているのは、言葉より、いつもの手順が続いているかどうかです。

降りてみて、戻したくなったとき

戻してかまいません。降りる役を1つ選び直すだけです。期間を今週いっぱいに区切っておくと、戻すときの判断が軽くなります。

戻した自分を、続かなかったと読まないでください。選び直した役が軽すぎたか、重すぎたかの情報が手に入っただけです。

今日やってみること

今週の終わりに、降りられた日を指で数えてください。1日でもあれば、同じ役をもう1週間だけ続けます。

同じ降り方でも、子どもによって受け取り方が違う

ここまでの降り方は、多くの家庭で効く標準的な進め方です。ただ、同じように降りても、変化の出方は家ごとに違います。

理由は2つあります。1つは、降りたことの受け取り方が子どもによって違うことです。もう1つは、今がどんな時期かということです。

確認や決まりが増えるほど押し返してくる子がいます。親が見張り役を降りると、数日で自分の段取りを作り始めます。

ただし、空いた役を「じゃあ、これはあなたの担当ね」と割り振り直すと、また止まります。この子の場合は、降りた役に担当を付けないでください。2週間は誰がやるか決めずに空けたままにして、本人が手を出したところだけを任せます。

一方で、家の中のことを外の人に知られたくない子もいます。親が窓口に相談に行ったと後から知ると、「自分のことを言いに行った」と受け取って口を閉ざします。

この子には、相談に行く前に一言だけ伝えてください。「お母さんが自分のことで相談に行く」。主語を自分にして言います。相談の中身と、本人の様子は報告しません。

時期の影響もあります。人には、外に向かって動きやすい時期と、内側で力を蓄える時期があります。蓄える時期に背中を押すと、反発か無気力が返ってきやすくなります。

このページの要点

やめたいと思うのは、引き受けている役が多すぎるサインです。降りるのは役で、親であることではありません。

見るのは、降り方の正しさではありません。この子が変化をどう受け取るかという見立てです。

気質と時期をどう組み合わせて判断するかは、中学生の子どもへのイライラと親の境界線のページで体系的にまとめています。手を動かす作業そのものが重いときは、中学生の男子の子育てに疲れたときに下ろす荷物の決め方が先です。

親自身の相談先。どこに、いつ話すか

相談先は、話したい内容で選びます。全部を1か所に話す必要はありません。

話したいこと相談先
反抗期の子との関わり方住んでいる市区町村の子育て相談窓口や保健センター
電話がしんどい。短く匿名で話したい親子のための相談LINE(こども家庭庁)
学校生活や友人関係が関わっている担任の先生やスクールカウンセラー
眠れない、食べられないが続く心療内科や精神科などの医療機関
どこに話せばよいか分からない支援情報検索サイト(厚生労働省が案内)

こども家庭庁の同じ資料は、こうも書いています。「勇気をもってSOSを出すことで、まだ気付いていない支援やサービスに出会えたり、それによって疲れやイライラが軽減したりするかもしれません」。

話しに行くことは、相手役から降りる作業の一部です。耐える量を増やさずに、持っている役を外に分けるための動きです。

親子のための相談LINEは、匿名でも相談できる窓口です。こども家庭庁の案内は「お住まいの自治体の相談受付時間等をご確認の上ご利用ください」としています。受付の曜日と時間は自治体によって違うので、使う前に見ておいてください。

厚生労働省の「まもろうよ こころ」は、窓口の探し方も案内しています。どこに相談したらよいか分からないときは、悩み別・方法別・地域別に窓口を探せる「支援情報検索サイト」が紹介されています。

子どもの側にも、朝に家を出られない日や、眠れない日、食べられない日が続くことがあります。これは、反抗期の延長として様子を見る場面ではありません。学校の担任やスクールカウンセラー、自治体の教育相談窓口、かかりつけの医療機関に、早めに電話してください。

今日やってみること

今週のうちに、親子のための相談LINEの友だち登録だけしておいてください。相談するかどうかは、登録したあとで決めてかまいません。

よくある質問

反抗期は母親だけにくるのでしょうか

母親にだけ強く出る子もいますが、それだけとは限りません。安心できる相手の前でだけ、反抗が出る場合があります。父親や祖父母には出ないこともあります。息子の場合の距離の取り方は中学生の反抗期で男子は母親との距離が先に広がる、娘の場合は娘の反抗期が耐えられないときの立て直しでまとめています。

反抗期の子供はどうしてむかつくのでしょうか

距離が近い相手の言葉は、そのまま刺さるからです。反抗期に出る強い言葉は、親個人への評価というより、自分の領域を守るための反射であることが多いものです。とはいえ、言われた側が腹を立てるのは自然なことです。平気なふりは要りません。「今の言い方には腹が立った」と一言だけ返して、台所に戻ってかまいません。

子どもにキレてしまう母親に特徴はありますか

特徴ではなく、重なった条件で決まります。空腹、睡眠不足、仕事の締切、自分が親から言われた言葉。これらが重なった日は、同じ場面でも声が大きくなります。キレたあとは、その日のうちに一言だけ渡してください。言い方は謝り、用件は取り消しません。謝り方の分け方は娘の反抗期が耐えられないときの立て直しでも扱っています。

シングルマザーの反抗期は辛いですか

一人で相手役を続けるぶん、重くなりやすいです。役を分担する相手が家の中にいないため、降りる役を選ぶことがより効きます。市区町村の子育て相談窓口では、使える支援サービスの案内も受けられます。ひとり親の家庭向けの相談窓口を置いている自治体もあります。