疲れているのは、頑張りが足りないからではありません。親の担当になっている仕事が、多すぎるからです。
伴走しているうちに、仕事は少しずつ親の側へ移ります。移った仕事を、誰かが返してくれることはありません。
疲れた母親が、自分を責める必要はありません。担当の置き場所が偏っているだけです。
変えるのは、気持ちの持ち方より先に担当表です。まず、減らす順番から出します。
疲れの正体は、親に集まった仕事の量
最初に線を引きます。受験まわりの仕事は、親・本人・塾の3つに分けられます。今の家で、それぞれがどこに置かれているかを見てください。
| 受験でよくある仕事 | 置き場所 | 置き直すときの一言 |
|---|---|---|
| 宿題の丸つけ、解説を読むこと | 塾か本人 | 「丸つけは授業で見てもらおう」 |
| 解き直す問題を選ぶ | 本人 | 「どれをやり直すかは決めておいて」 |
| 1週間の勉強の予定を組む | 本人(枠は塾) | 「予定は日曜の夜に自分で書いて」 |
| 教材とプリントの整理 | 本人 | 「置き場所だけ決めよう。中身は任せる」 |
| 送り迎え、食事、睡眠、通院 | 親 | 手を離さない |
| 費用と、受ける学校の数の上限 | 親 | 「出せるのはここまでと決めている」 |
| 受ける学校を決める | 本人と親 | 「候補はそろえる。最後は一緒に決める」 |
親が持ち続けてよいのは、送り迎えから下の3行です。上の4行まで家で抱えているなら、疲れるのは自然なことです。
量が多いだけではありません。上の4行は、親がやっても本人の力になりにくい仕事です。親が丸をつけた問題は、親の記憶に残ります。
減らす順番を間違えると、前より管理が増える
いちばん重い「予定を組む」から手放すと、1週間で崩れます。崩れた姿を見た親は、前より強く管理に戻ります。
先に手放すのは、崩れても被害の小さい仕事です。丸つけと教材の整理から始めてください。
今日やってみること
今夜、上の表を紙に書き写してください。それぞれの行の横に、その仕事を今持っている人の名前を書きます。
中学受験で辛い時期はいつ来るか
学年や月で決まるというより、親の担当がいちばん増える局面で来ます。よく挙がるのは、次の4つです。
- 塾の宿題が増え、家の時間に収まらなくなったとき
- 過去問が始まり、採点と記録が家の仕事になったとき
- 出願の組み立てが始まり、日程の管理が増えたとき
- 入試が近づき、体調を保つ責任を一身に感じるとき
入試は、地域によって1月から2月に集中します。そのため、秋から冬にかけて作業が重なります。重なり方は家庭によって違うので、月で身構える必要はありません。
作業が増えている局面では、気持ちの持ち方を変えても追いつきません。「つらい」と感じたら、担当を見直す合図として扱ってください。
今日やってみること
今週のどこかで、受験のために自分がやっている作業を、思い出せるだけ書き出してください。並べ替えるのは別の日でかまいません。
親主導の受験から、本人の受験に戻す順番
一度に全部渡すと、親のほうが不安に耐えられません。管理、声かけ、任せるの順に、2週間ずつ進めます。
最初の2週間でやること
- 丸つけを本人か塾に戻す。親は答え合わせの中身を見ない
- 「やったの」と聞く回数を、1日1回と決める
- テストが返ってきたら、点数に触れず「次はどこを直す」とだけ聞く
親が解説を読み込むこと自体は、悪いことではありません。塾に入ったばかりの時期には役に立ちます。ただ、長く続けると、考える仕事が親の側に残ります。
渡したあと、成績が少し下がることがあります。そこで戻すと、本人の中に「どうせ親がやる」が残ります。下がり方を記録して、2週間は見るだけにしてください。
今日やってみること
今夜の宿題から、丸つけを本人に渡してください。間違いの数だけ聞いて、直し方には触れません。
塾との距離感。任せる範囲と、面談で頼むこと
塾に任せられるのは、学習の中身と進度の判断です。家に残るのは、生活と気持ちの土台です。この線を引くと、家で抱える作業が減ります。
面談は、報告を聞く場ではありません。家に溜まった仕事を戻す場として使えます。
| 家で抱えている仕事 | 面談でこう頼むと | こう返ってきやすい |
|---|---|---|
| 宿題が終わらず、親が取捨選択している | 「今週はどれを飛ばしてよいか、本人に直接言ってもらえますか」 | 本人が優先順位を先生から聞いて帰る |
| 丸つけと直しの管理 | 「直しは授業の中で確認してもらえますか」 | 家の作業が1つ減る |
| 志望校の相談を親だけがしている | 「同じ話を、本人にもしてもらえますか」 | 本人の口から希望が出る |
| 質問できずに家で聞いてくる | 「質問の仕方を一度教えてもらえますか」 | 親を経由しない回路ができる |
塾は、頼めば引き受けてくれることが多いものです。頼まなければ、その仕事は家庭が持っていると見なされます。
塾への不満を、本人の前で言わない
先生への不信を聞いた子は、授業そのものを疑い始めます。成績が落ちると、親の不満はさらに強くなります。
伝えたいことは、面談か電話で、本人のいない場所で伝えてください。
今日やってみること
塾に戻したい仕事を1つ選んでください。面談か電話で使う一文を、そのままメモに書いておきます。
夫婦のずれは、方針ではなく担当で分ける
方針をそろえようとすると、話は平行線になります。先に分けるのは、考え方ではなく担当です。
「厳しく管理するか、見守るか」は、どちらの側も正しさを主張できます。結論は出ません。出ないまま、子どもの前で続きが始まります。
担当で分けると、合意の形が変わります。「この仕事はあなたが持つ。中のやり方には口を出さない」と決めるだけで済みます。
| 担当 | 受け持つ人 | 相手が口を出さない範囲 |
|---|---|---|
| 塾との連絡、面談 | どちらか一方 | 先生への伝え方 |
| 日曜の過去問の付き添い | どちらか一方 | 当日の進め方 |
| 体調と睡眠の見守り | どちらか一方 | 寝かせる時刻の判断 |
| 費用と、受ける学校の数の上限 | 2人で決める | ここは一緒に決める |
| 受験を続けるかどうかの話 | 2人で決める | ここは一緒に決める |
丸投げされていると感じるときは、作業の名前で頼んでください。「もっと関わって」では動きません。「日曜の午前は過去問の採点をお願いしたい」なら動きます。
意見が合わない話題は、子どもの前で続けないと決めておきます。話す時間を週に1回だけ決めておくと、その場で決着させずに済みます。
今日やってみること
上の表から担当を1つ選んでください。今週のうちに、相手に作業の名前で「この仕事を持ってほしい」と伝えます。
怒ってしまった後の戻り方
戻り方の基本は、その日のうちに短く伝えることです。勉強の話は、同じ時間に混ぜません。
怒りは、性格の問題ではありません。こども家庭庁の資料は、体罰等をしてしまう背景として、保護者の負担感や孤独感を挙げています。「自分の仕事や介護、家族関係等でストレスが溜まっている」「周囲に相談したり頼りにできる人がいない」といった状態です。
受験期の家は、この条件がそろいやすい場所です。時間に余裕がなく、同じ話をできる相手も限られます。
言いすぎた夜にやること
- その日のうちに「さっきは言い方がきつかった」とだけ伝える
- 「でも、過去問をやらないから」と理由を足さない。言い分が付くと、謝罪が注意に戻る
- 勉強の話は翌日に回す。謝罪と指示を同じ時間に乗せない
- 翌朝が塾の日なら、送り出す一言だけにする
埋め合わせに、教材や講座を足さない
怒ったあとの後ろめたさから、問題集や講習を申し込むことがあります。親の作業が増え、本人のやることも増えます。
立て直しは、足すことではなく、元の量に戻すことです。
自己嫌悪そのものは、消さなくてよいものです。自分の言動を外から見る力が働いています。ただ、握り続けると、翌朝の関わりが不自然になります。
今日やってみること
今夜、声が大きくなった場面を1つ思い出してください。その直前に自分が何をしていたかを、メモに一行で書きます。
「これは親のエゴではないか」と思ったとき
その問いが浮かぶ時点で、周りが見えなくなってはいません。自分の動機を外から眺めています。
ただ、エゴかどうかを判定しても、翌日の行動は変わりません。見るのは、心配の向きです。本人の今の状態に向いているのか、自分の不安に向いているのか。
「このままでは間に合わない」と感じた夜は、紙に2行書いてください。1行目は、本人がその日にやったこと。2行目は、自分が怖いと思っていることです。2行目は、本人に言わなくてよい内容です。
心配の出どころを分けて整理する方法は、中学受験を「親のエゴ」と悩むときの、心配の置き場所の分け方で詳しく書いています。
追い詰められたと感じたときは、休む・頼る・相談する
ここまでの内容は、気力が少し残っていることを前提にしています。残っていないときは、関わり方を直すより先に、負荷を下げてください。
こども家庭庁の資料には、こう書かれています。「また、子育てには、気力・体力をとても使います。そのため、困ってから相談に行こうと思っても、その気力が湧かなくなってしまうこともあります」。
動けるうちに窓口を調べておくほうが現実的だ、ということです。同じ資料は「時には保護者自身が休むことも、大切です」とも書いています。
厚生労働省のサイト「こころもメンテしよう」は、うつ病の特徴を9つ挙げています。「眠れない、あるいは寝すぎる」「食欲が減る、あるいは増す」「疲れやすく、何もやる気になれない」などの項目です。そのうえで「5つ以上(1か2を含む)が2週間以上続いていたら、専門家に相談することをお勧めします」としています。
受験の忙しさの中では、この2週間が見過ごされます。当てはまると感じたら、自分で判断せず、下の窓口に話してください。
| 相談先 | どんなときに |
|---|---|
| お住まいの市区町村の子育て相談窓口・保健センター | 子育ての悩み全般。使える支援の案内も受けられる |
| 親子のための相談LINE(こども家庭庁) | こども(18歳未満)とその保護者などが対象。匿名でも相談でき、相談内容の秘密は守られる |
| こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(厚生労働省) | 気分の落ち込みや不眠が続くとき。対応の曜日・時間は都道府県によって異なる |
| 24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310(文部科学省) | 子どもも保護者も、夜間・休日を含めていつでも相談できる |
| 学校の担任・スクールカウンセラー | 学校生活や友人関係が関わっているとき |
| 心療内科・精神科などの医療機関 | 不調が続き、生活に支障が出ているとき |
続けるかどうかで迷っているなら、中学受験をやめた方がいい子かどうかを決める前に試す立て直しの順番を先に読んでください。やめる判断の前に、量と時期を調整できる場合があります。
今日やってみること
手帳かスマホのカレンダーを開いてください。来週の中に、何もしない時間を30分だけ先に入れておきます。
同じ順番で進めても、この子への届き方は違う
ここまでは、多くの家庭で役に立つ標準的な手放し方です。ただ、同じ順番で進めても、手応えが出るまでの時間は子どもによって変わります。
理由の1つは、生まれ持った受け取り方の違いです。
たとえば、できていない姿を親に見られたくない子がいます。模試の出来が悪かった週ほど、「どうだった」に「ふつう」としか返しません。心配の言葉を重ねるほど、口数が減ります。
この子には、確認の宛先を変えるほうが届きます。聞きたいことを本人に向けず、親のノートに書き、面談でまとめて先生に聞きます。
もう1つの例は、自分の間合いを乱されると止まる子です。親が隣に座っていると、手が動かないまま時間が過ぎます。
この子には、親が席を外す時間を先に決めるほうが進みます。戻る時刻だけ伝えて、その間の進み方は聞きません。
同じ「手を引く」でも、効く形は子どもによって違います。ここに挙げたのは傾向であって、子どもを分類するためのものではありません。
もう1つの軸は、時期です。人には、外に向かって動きやすい時期と、内側で力を蓄える時期があります。蓄える時期に押すと、反発か無気力のどちらかが返ってきやすくなります。
この記事の要点
疲れの原因は、親に集まった仕事の量です。丸つけと教材の整理、声かけの回数、予定を組むこと、の順に手放します。
夫婦は方針ではなく担当で分け、塾には作業の名前で頼みます。そのうえで、この子に何がどう届くかという見立てを持つと、押す場面と待つ場面の判断が軽くなります。
親の消耗が起きる仕組みと、境界線の引き直し方は中学生の子どもへのイライラと、親が消耗しない境界線のページで整理しています。
よくある質問
中学受験で親がやってはいけないことは?
やってはいけないことを数えるより、引き受けすぎている仕事を返すほうが先です。丸つけ、解き直す問題の選択、予定作りが親の手にあるなら、そこから順に戻してください。禁止事項を覚えても、作業量は減りません。
中学受験で親が勉強するのは良いことですか?
入り口では役に立ちますが、長く続くと考える仕事が親に残ります。内容を理解していれば、塾の面談でのやりとりは速くなります。ただし、解法を説明する役まで引き受けると、本人が質問する相手が家の中だけになります。わからない問題は、塾に持ち帰る形に戻してください。
受験生がストレスを感じたら、どんな症状が現れますか?
眠れない、食欲が落ちる、朝起きられないなどの形で出ることがあります。腹痛や頭痛が続くこともあります。勉強の問題として扱わず、担任の先生やスクールカウンセラー、自治体の教育相談窓口、小児科などの医療機関に早めに相談してください。
中学受験が終わったあと、気が抜けて動けないのはなぜですか?
数年ぶんの担当が一度になくなるので、力が抜けるのは自然な反応です。生活のリズムが戻るまでに時間がかかることもあります。落ち込みや不眠が2週間以上続くときは、上の窓口に相談してください。











