平日の夕方6時。帰ってきた小学5年生が、ランドセルを床に置いたままソファに沈みます。台所から「手を洗って、宿題出して、明日の準備もしてね」と声をかけると、返ってくるのは「はーい」。20分後、どれ一つ始まっていません。2回目は少し強く、3回目には自分でも驚くほど大きな声になっていました。

この記事は、小学4年生から中学3年生の子どもを持つ保護者に向けて書いています。幼児期のイヤイヤとは、理由も対処も違うためです。

先に結論をお伝えします。言うことを聞かないとき、多くの場合は言い方の問題ではなく、言う順番と言う範囲の問題です。言い回しを探す前に、次の2つを決めます。

  • 誰が・いつ・どの順番で言うか
  • どこまでは言い続け、どこからは本人に返すか

この2つを決めると、同じ言葉のまま届き方が変わることがあります。性格や育て方の問題として片づける必要はありません。

言い方を変える前に決める2つのこと

1つ目: 言い続ける範囲と、本人に返す範囲

まず、家庭で口にしている用件を3つに分けます。すべてを同じ強さで言い続けると、子どもにはどれが大事なのかが見分けられません。全部まとめて、聞き流す対象になってしまいます。

扱い用件の例関わり方
手放さない (安全・健康・お金)帰宅時刻と行き先、自転車や夜道の危険、睡眠・食事・体調、課金やお金の貸し借り聞かなくても引かない。短く、理由を添えて、同じ内容を伝え直す
約束として確認する家族で決めた家事の分担、スマホやゲームの取り決め、提出物の締切の共有一度伝えたら、守れなかったときに「どうする?」と次の取り決めへ移る
本人に返す宿題を始める時刻、勉強のやり方、部屋の片づけの程度、服装や髪型言うのは一度まで。結果は本人のものとして受け止める

ここでのポイントは、3つ目の行を思い切って広く取ることです。言う用件の数が減るほど、残った用件の一言が重くなります。「手放さない」に入れるのは、聞かなかったときに損なわれるものがある用件だけです。本人の安全や健康、家族のお金がそれにあたります。

2つ目: 誰が・いつ・どの順番で言うか

範囲が決まったら、言い方ではなく、言う段取りを整えます。

言う前に決める段取り

  1. 誰が: 一つの用件は一人が言う。両親が同じことを続けて言うと、内容は同じでも子どもには二倍の圧力として届きます
  2. いつ: 帰宅直後、ゲームや動画の途中、友だちとのやりとりの最中は避ける。用件が急ぎでなければ、区切りがついた時間まで待つ
  3. どの順番で: 一度に頼むのは一つ。一つ目が終わってから二つ目を言う。並べたいときは紙に書いて置く
  4. 言ったあと: 同じ用件を短い間隔で繰り返さない。繰り返すなら、時間をおいて一度だけ
この用件は
手放さない範囲か
言うのは誰か
(一人に決める)
今は区切りの
ついた時間か
一つだけ言う
口を開く前の確認の順番。最初の段で「本人に返す範囲」とわかれば、言わずに済む用件もある

冒頭の場面に当てはめてみます。「手を洗って、宿題出して、明日の準備」は、3つの用件が一度に並んでいます。

  • 手洗いは健康の範囲なので、言う
  • 宿題を出す時刻は、本人に返す
  • 明日の準備は、本人が自分で見られるように紙に書いて置く

言う言葉は、「手だけ先に洗ってね」の一つになります。

今日やってみること

今夜、子どもに頼むことを一つだけに絞って言ってみてください。たとえば「手だけ先に洗ってね」です。ほかの用件は、その場では口にしません。

なぜ聞かなくなるのか。小4〜中3で理由が変わる

小学4年生ごろから、言うことを聞かない理由が変わっていきます。「わかっていない」から、「わかったうえで、自分で決めたい」へ。反抗的な態度に見えても、原因の多くは別のところにあります。発達の変化と、子どもが外で抱えている負荷です。

こども家庭庁の資料「体罰等によらない子育てのために」も、「子どもの『言うことを聞かない』にもいろいろな理由が考えられます。」と述べています。そのうえで、子どもなりの考えがある場合や、体調が悪い場合などを挙げています。乳幼児期を含む子育て全般を念頭に置いた資料です。それでも、理由が一つではないという点は小・中学生にも当てはまります。

10歳前後: 親の言葉を外側から眺め始める

いわゆる「10歳の壁」と呼ばれる時期には、子どもの考え方そのものが変わります。こども家庭庁が公開している放課後児童支援員向けの教材は、おおむね9〜10歳頃の特徴として「他者の視線や評価に一層敏感になる。」と書いています。人からどう見られているかが、前より気になり始めるということです。

親から何を言われたかだけでなく、どういうつもりで言われたかまで読み取るようになります。きょうだいや友だちの前で言われたかどうかも、気にします。

これまで通じていた声かけが急に効かなくなるのは、言葉が悪くなったからではありません。受け取る側の目が育ったからです。この時期の関わり方の切り替えは、10歳の壁で親の関わり方を切り替える順番にまとめています。

高学年〜中学生: 反抗期の入り口

同じ教材は、おおむね11〜12歳頃について「大人から一層自立的になり、少人数の仲間で「秘密の世界」を共有する。」と述べています。大人から離れ、親の知らない友だちどうしの世界を持ち始める、ということです。

自分のことは自分で決めたいという気持ちが、強まる時期です。この時期の親の指示は、内容にかかわらず「決める権利を取られる」合図として届きやすくなります。

言い返す、黙る、「あとで」と言って動かない。出方は子どもによって違いますが、いずれも反抗期の入り口で起きる自然な反応です。小学生の口答えや暴言への対応は小学生の反抗期で小4・小5・小6の違いと暴言への対応、時期全体の見通しは反抗期・思春期のページで整理しています。

外の負荷: 家では残りの力が少ない

もう一つ見落としやすいのが、外で使い切った力です。学校・部活・塾・友人関係で、子どもは力を使っています。外でがんばっている子ほど、家に帰った時点では、人の指示を受け取る余力が残っていません。

帰宅直後に用件を並べても入らないことがあります。それは反抗ではなく、単に受け取る容量がいっぱいだから、という場合も少なくありません。

今日やってみること

今日、子どもが帰宅したら、用件より先に「おかえり」だけを言って、そのまま自分の作業に戻ってみてください。用件は、子どもが一息ついたあとに回します。

ほっとくべきか、言い続けるべきか

答えは用件によって分かれます。安全・健康・お金に関わる用件は、聞かなくても引かずに言い続けます。それ以外は、一度言ったら繰り返さずにほっとくほうが、残った用件が届きやすくなります。

先ほどのこども家庭庁の資料にも、「重要なことでない場合、今はそれ以上やり合わない、というのも一つの方法かもしれません。」という一文があります。大事でないことなら、その場で言い合いを続けなくてよい、ということです。やり合わないことは、負けではありません。大事な用件のために、言葉の重みを取っておく判断です。

ただし、ほっとくことと、関心を引き上げることは違います。片づけについて言わなくなっても、夕食の席で学校の話を聞く時間はなくさない。用件は減らしても、子どもとの接点は減らさない、という線です。

「言い続ける」が逆効果になりやすい形

手放さない範囲の用件でも、次の形になると、内容より不快感のほうが残ります。長く説教する、過去の失敗を並べる、きょうだいと比べる、の3つです。

言い続けるときほど、短く、その場で、理由を一つだけ添えるのが届く形です。

今日やってみること

今夜の夕食で、用件ではない話を一つだけ子どもに聞いてみてください。たとえば「今日の給食、何だった?」です。答えが短くても、そこで終えてかまいません。

中学生で、話しかけても返事がない状態が続いている場合は、中学生の反抗期で無視されるときの線引きもあわせて読んでみてください。

同じ頼み方でも、届く子と届かない子がいる

段取りを整えても、届き方には子どもによって差があります。指示が入りにくい子が、劣っているわけではありません。生まれ持った受け取り方の傾向が違うだけです。ここでは、言うことを聞かない場面で差が出やすい2つの傾向を並べます。

受け取り方の傾向用件を並べたときに起きやすいこと届きやすい関わり方
一度にいくつも頼まれると動けず、一つずつなら丁寧に進める「はーい」と答えたまま、どれから手をつけるか決められずに止まる頼む用件を一つに絞り、残りは紙やホワイトボードに書いて、本人が見える場所に置く
関係が先に立ち、用件より先に自分の話を聞いてもらえたかで動く帰宅してすぐ用件を言われると、話したかったことを飲み込んで動かなくなる頼みごとの前に、その日の話を最後まで聞き切る。用件はそのあとに一つだけ

一つ目の傾向の子にとって、用件を並べられることは「全部を同時に抱えさせられる」ことです。一つずつなら、手を抜かずに進められる子です。並べる代わりに見える形で残すと、親が声を重ねなくても、順に片づいていきます。

二つ目の傾向の子は、用件の正しさより、相手との関係のほうを先に確かめています。帰宅直後の食卓で「今日ね」と話し始めたところに、「その前に宿題は?」と重ねたとします。用件は聞こえていても、心はそこで閉じてしまいます。話を聞き切ってから用件を一つ言うと、同じ言葉でも受け取り方が変わります。

どちらの傾向も、言い回しを工夫するだけでは変わりません。変わるのは、誰に・いつ・どの順番で言うかのほうです。

疲れ切ったとき、親の側で先に整えること

言うことを聞かない毎日が続くと、親の側が消耗していきます。疲れたと感じるのは、子どもへの関心が強いからこそ起きる自然な反応です。そのうえで、立て直しは子どもより先に、親の側から始めるほうが現実的です。

親が消耗を減らすためにやること

  1. 1日に口にしている用件を書き出し、「本人に返す」に入るものを今週は言わないと決める
  2. 手放さない用件は、伝える担当を一人に決め、もう一人は同じことを言わない
  3. 声が大きくなりそうな時間帯 (帰宅直後や夕食前の忙しい時間) には、新しい用件を出さない

こども家庭庁の同じ資料は、否定的な感情が湧いたときの振り返り方にも触れています。それが子どものことなのか、「自分の体調の悪さや忙しさ、孤独感など、自分自身のことが関係しているのか」を振り返ると、気持ちが少し落ち着くことがある、という内容です。言うことを聞かないことへの苛立ちのなかには、親自身の疲れが混ざっていることも少なくありません。

言う用件を減らすことは、手を抜くことではありません。何度も言っては言い返される往復から、親自身が解放されるための線引きです。イライラとの付き合い方や、親の課題と子どもの課題の分け方は親のメンタルのページでまとめています。ひとりで抱えきれないと感じたときは、こども家庭庁の「親子のための相談LINE」のように、匿名で相談できる窓口もあります。

今日やってみること

今夜、寝る前に、今日子どもに言った用件を思い出せるだけ紙に書き出してみてください。減らすかどうかは、書いたものを見てから決めればかまいません。

相談先を考えるサイン

段取りを整えても変わらず、次のような様子が重なる場合があります。そのときは関わり方の問題として抱え込まず、外の目を借りることを考えてください。

  • 学校でも家でも、指示や説明が伝わっていない様子が続く
  • 呼びかけに気づかないことが多く、聞こえ方が気になる
  • 眠れない、食欲がない、学校に行きたがらない様子がある
  • 親子とも、言い争いが毎日続いて家の中が休まらない

こども家庭庁の資料には、「大人に言われていることが理解できず、結果として「言うことを聞かない子」と見えることもあります。」という記述もあります。聞かないのではなく、わからずにいる場合もある、ということです。気になる様子があっても、家庭で原因を決めつける必要はありません。

担任の先生やスクールカウンセラー、自治体の教育相談の窓口に相談すると、学校での様子と合わせて見てもらえます。聞こえ方や体調が気になるときは、かかりつけの小児科などの医療機関に相談してください。子どもや保護者が夜間や休日に相談できる先として、文部科学省が案内している「24時間子供SOSダイヤル」もあります。

順番を整えても変化が見えにくいとき

ここまでの内容は、言うことを聞かない場面で多くの家庭が試せる、標準的な段取りの整え方です。ただし、この通りにしても手応えが出にくい家庭があります。前半の方法が間違っているからではありません。段取りの外側に、まだ見ていない条件が2つあるからです。

1つ目は気質です。先ほどの表のように、用件の数で止まる子もいれば、関係の確かめ方で止まる子もいます。親が「自分なら届く頼み方」を基準にしていると、段取りを整えても、その子にとっての引っかかりが残ったままになります。

2つ目はタイミングです。人には、外に向かって動きやすい時期と、内側でエネルギーを蓄える時期があります。蓄える時期にある子は、同じ一つの用件でも、動き出す力がまだ手元にありません。以前は聞いてくれた頼み方が、届かなくなることがあります。この時期に見るのは、用件がこなせたかではありません。言い争いが減っているかどうかです。

この記事のポイント

言うことを聞かないときに見直すのは、言い回しより先に、言う範囲 (安全・健康・お金は手放さない) と、誰が・いつ・どの順番で言うかです。その先で効いてくるのが、相手の気質と今の時期に対する「見立て」です。

同じ一言が子どもによって違って届く仕組みと、口を開く前に決めることは、声かけ・コミュニケーションのページで体系的にまとめています。

よくある質問

子どもが言うことを聞かないときは、どうしたらいいですか

言い方を変える前に、言う用件を絞り、誰がいつ一つずつ言うかを決めてください。安全・健康・お金に関わる用件は、短く言い続けます。それ以外は、一度言ったら本人に返します。用件の数が減ると、残った一言が届きやすくなります。

小3男子が言うことを聞かないときの対処法は?

学年や性別より、その子の受け取り方と今の時期で見るほうが手がかりになります。一度に並べると止まる子なのか、話を聞いてもらってから動く子なのかで、届く頼み方が変わります。この記事の段取りは、小学3年生にも使えます。ただ、小学4年生ごろからは、自分で決めたい気持ちが強まる点も頭に置いておいてください。

言うことを聞かない子は、ほっといても大丈夫ですか

安全・健康・お金に関わること以外は、ほっといてかまいません。ただし、用件を言わなくなっても、学校の話を聞く時間などの接点は減らさないでください。眠れない、食欲がない、学校に行きたがらないといった様子があるときは、担任の先生やスクールカウンセラーに早めに相談することをおすすめします。