先に結論をお伝えします。褒めるところが見つからないのは、褒め方が下手だからではなく、点数や順位といった「結果」ばかり見ているからです。結果の手前にある「やったこと」を見て、見たまま一言返す。これだけで、褒めるところがない日はほとんどなくなります。
この記事は、小学4年生から中学3年生の子どもを持つ保護者に向けて書いています。この年齢の子は、親の言葉が「点をつけられている」のか「見てもらえた」のかを、すぐに聞き分けるからです。褒め言葉の一覧や例文は載せていません。言い回しを探すより先に、見る場所を変えるほうが効くためです。
褒め方の正解より、「何を見て、何を言うか」
子どもの褒め方がわからないときは、「褒める」をいったん脇に置きます。代わりに、見たことをそのまま一つ返します。やることは3つです。
褒める前に変える3つのこと
- 見る場所を、結果の手前に下ろす: 点数ではなく、そこまでにやったこと (見直した、自分からテストを見せに来た) を見る
- 「すごい」「えらい」をやめて、見たことを言う: 「見直ししてたね」のように、目に入ったとおりに言う
- 先に、本人に聞く: 親が採点する前に「どこを気にしてやった?」と一度だけ聞く
冒頭の場面に当てはめてみます。68点という結果には、褒める材料が見当たりません。でも手前を見ると、前回まちがえた分数の割り算が今回は合っています。途中の式を消さずに残しています。そもそも、自分からテストを出してきました。言う言葉は「分数の割り算、今回は合ってるね」の一つで足ります。
同じ場面を、言葉で並べるとこうなります。
| 場面 | 「評価」の言葉 | 「見たまま」の言葉 |
|---|---|---|
| 宿題を終えた | 「えらいね、さすが」 | 「今日は先に始めてたね」 |
| 子どもの返事 | 「別に」「すごくないし」と流れやすい | 「うん、今日は先にやった」と返ってきやすい |
| 褒めるところがない日 | 言うことが見つからない | 「ノート開いてたね」でよい |
右側の言葉には、合格ラインがありません。見たことを言うだけなので、褒めるところがない日でも言えるのです。
今日やってみること
今夜、子どもがやっていたことを一つだけ見つけて、「〜してたね」と言ってみてください。「すごい」「えらい」は付けません。反応がなくても大丈夫です。言ったら、その話はそこで終えます。
褒めるのと認めるのは何が違うのか
違いは、「合格かどうか」を決めているのが誰か、です。褒めるのは、親の基準で「合格」と判定することです。認めるのは、子どもが工夫したことや続けたことを、見たまま受け取ることです。
国立教育政策研究所の生徒指導リーフ「『自尊感情』?それとも、『自己有用感』?」は、大人が褒めるときは、大人の基準で水準に届いたかを評価することが多いと整理しています。そして、子どもが認めてほしいのは「子供なりのこだわりで努力したり工夫したりしたこと」だと述べています。同じリーフには「日本の児童生徒の場合には、他者からの評価が大きく影響する。」という一文もあります。
つまり、褒めること自体が悪いのではありません。基準が子どもの感覚とずれたまま褒めると、言葉が子どもの手前で止まります。冒頭の娘にとって、68点は「クラスで下のほう」でした。父親の「すごい」は、娘の実感と食い違い、慰めのように聞こえてしまったのです。
「具体的に褒める」とどう違うのか
多くの記事が勧める「具体的に褒める」は、見たまま伝えることにかなり近い考え方です。違いが出るのは、文の終わりです。「見直しをしていてえらいね」は、事実に評価がくっついています。「見直しをしてたね」は、事実だけです。
小学校高学年以降の子には、評価を外したほうが届く場面が増えていきます。ただし、評価を足すかどうかは、その子の受け取り方で決めます。後ろの節で、もう少し詳しく書きます。
褒めるところが見つからないとき、見る場所の順番
見つからないときは、結果から順に、見る場所を一段ずつ手前に下ろします。どの段にも何もない日は、ほとんどありません。
(点数・順位・完成)
(始めた・見直した・調べた)
(前より早い・前は飛ばしていた所)
(毎朝の支度・いつもの練習)
(手伝った・知らせてくれた)
こども家庭庁の資料「体罰等によらない子育てのために」も、結果だけでなく頑張りを認めることに触れています。そこには「今できていることに注目して褒めることも大切でしょう。」とあります。乳幼児期を含めた子育て全般向けの資料ですが、「肯定的な注目を向けることで、その態度や行動が増えることにもつながります。」という指摘は、小・中学生にも当てはまります。
4段目「続いていること」は見過ごしやすい
毎朝自分で起きている。部活を休まず続けている。弁当箱を流しに出している。こうしたことは、できて当たり前になっているので、親の目に入らなくなります。
崩れたときだけ指摘され、続いているときは何も言われない。そんな状態が長いと、子どもは「見られているのは失敗だけ」と受け取りやすくなります。言うときは、「毎朝自分で起きてるね」と見たままで十分です。特別な出来事を待たなくて構いません。
5段目「人への関わり」は、「助かった」で返す
5段目は、評価ではなく「助かった」で返せる段です。先ほどのリーフは、「人の役に立った、人から感謝された、人から認められた」という感覚を自己有用感と呼びます。これは、自分を高く評価する気持ちとは別のものだと整理されています。
「洗濯物を入れておいてくれて助かった」は、褒め言葉ではありません。親に起きたことの報告です。点をつけられている感じがしないので、褒められるのを嫌がる子にも届きやすい言い方です。
見つけたことを、次の要求につなげない
「見直しできたね。じゃあ次は90点だね」のように、認めたすぐあとに次の目標を足すと、子どもには前半ではなく後半の要求が残ります。見たことを言ったら、そこで終えてください。リーフの言葉を借りれば、必要なのは「一人一人をきちんと見ること」です。見たことを、次の課題の前置きにすることではありません。
今日やってみること
夕食までに、「当たり前になっていること」を一つ探して、「〜してるね」と言ってみてください。たとえば「毎朝、自分で起きてるね」です。あとに「でも」や「次は」を付けないのがコツです。
褒められるのを嫌がる子・恥ずかしがる子がいる理由
褒められるのを嫌がる子は、褒め言葉そのものより、「評価される場面」や「注目が集まる場面」を避けていることが多いです。照れる、白ける、反応がない。これは、言葉が届いていない合図というより、届き方が違うだけだと見ると、扱いやすくなります。
理由の一つは、年齢です。小学校高学年から中学生にかけて、子どもは自分がどう見られているかに敏感になります。親の褒め言葉にも「何を基準に言っているのか」を読み取るようになります。
もう一つは、生まれつきの受け取り方の違いです。ほめることを扱った研究をまとめた名古屋大学の紀要論文 (青木, 2008) は、研究の多くが「ほめる大人」の側から行われていると指摘しています。ほめられる子どもが、それをどう受け止めているかを調べた研究は少ない、とも述べています。褒め方の「正解」が子どもによって外れるのは、受け取る側の違いが十分に語られてこなかったからでもあります。
ここでは、褒められたときの反応が違う2つの子を並べます。どちらも、扱いにくい子ではありません。受け取り方の形が違うだけです。
| こんな子 | 褒めると、こうなりやすい | こうすると届きやすい |
|---|---|---|
| 気持ちを顔に出さず、自分で決めた目当てで動いている | 「すごいね」に「別に」「ふーん」と返す。反応が薄い | 褒める前に「どこにこだわったの?」と一度だけ聞く。その目当てに合わせて、見たことだけ返す |
| 注目されたり期待されたりすると、固まる | 大きく褒めた翌日から、同じことをやらなくなる | 声の調子も場面も、ふだんどおりにする。見たことを一言だけ言う。拍手やご褒美の上乗せはしない |
一つ目の子は、反応が薄いので「褒めても無駄」に見えやすい子です。でも実際は、自分の目当てで、ちゃんと手応えを測っています。親が先に評価をつけると、本人の目当てと食い違い、言葉が素通りします。本人が「今回は途中の式を全部書くって決めてた」と言ったら、「全部書いてあるね」と返すだけで、本人の物差しで受け取られます。
二つ目の子にとって、大きな称賛は「次はもっとできる前提になった」という合図に聞こえます。自分から始めた朝の支度に気づいても、家族の前で取り上げたり、声を弾ませたりすると、翌日から手が止まることがあります。温度を上げず、いつもどおりに言うことが、この子には続けやすい条件になります。
同じ「褒めすぎない」でも、一つ目は物差しを本人に渡すため、二つ目は注目の熱を下げるためで、理由が違います。どちらが合うかは、言い回しでは決まりません。その子の受け取り方を見て決めます。
今日やってみること
お子さんが褒められたとき、どちらの反応に近いかを、今日一度だけ観察してみてください。「別に」と流すなら、次から先に「どこを気にした?」と聞いてみます。褒めた翌日に手が止まるなら、次は一言で、いつもの声で言ってみます。
ご褒美と「褒めて伸ばす」の限界
ご褒美は、ダメではありません。ただし、ご褒美も褒め言葉も、行動の理由を子どもの外側に置く道具です。いつも使っていると、それがない場面で手が止まりやすくなります。罰とご褒美がどこまで効いて、どこから効かなくなるかは、勉強・スマホなどの行動課題のページの「罰とご褒美の限界」でまとめています。
「褒めて伸ばす」にも、同じ限界があります。前述のリーフは、大人が褒めて自信をつけさせても、「実力以上に過大評価してしまったり、周りの子供からの評価を得られずに元に戻ってしまったり、自他の評価のギャップにストレスを感じるようになったり、ということが起きうるからです。」と述べています。褒めることを否定しているのではありません。褒めるだけでは、自信が続きにくいという整理です。
「褒めて」の内側にあるもの
褒め言葉が、気づかないうちに「親が望む行動へ誘導する道具」になっていることがあります。勉強を始めたときだけ褒めて、好きなことに打ち込んでいるときは何も言わない。そうした偏りは、子どものためを思う気持ちから自然に生まれます。ただ、子どもには「どんなときに褒められるか」が、正確に伝わっています。褒め言葉が響かなくなったら、言い回しを変える前に、親の期待が言葉に乗りすぎていないかを、一度だけ確かめてみてください。
褒められて育つことが、そのまま将来の弱さにつながるわけではありません。差が出やすいのは、褒められた量ではなく、「自分の目当てで、手応えを確かめた経験」がどれだけあったかのほうです。
自信がなさそうな子に、声かけより先にできること
自信がなさそうな子には、励ましの言葉を探すより先に、親の評価を減らします。そして、本人が手応えを感じられる場面を、家の中に用意します。順番は次のとおりです。
声かけより先に整える順番
- 比べる言葉を、一つ止める: きょうだいや友だち、親の子ども時代との比較を一つ減らします。それだけで、見たまま返す余地ができます
- 家の中に、本人の役割を一つ置く: 風呂の湯はり、ごみ出し、夕食の一品など、終わると家族が助かる仕事を任せます。終わったら「助かった」と返します
- 目当てを、本人に先に言ってもらう: テストや発表の前に「今回はどこを気にしてやる?」と聞きます。終わったら、その目当てに合わせて振り返ります
- 言葉は最後に、見たことを一つ: ここまで整えば、短い一言で足ります
この順番なら、親も楽になります。毎回うまい褒め言葉を考える必要がなく、見たことを一つ言えば済むからです。
自信のなさが長く続き、眠れない、食欲がない、学校に行きたがらないといった様子が重なるときは、家庭だけで抱え込まないでください。担任の先生、スクールカウンセラー、自治体の教育相談の窓口に相談できます。体調が気になるときは、かかりつけの小児科などの医療機関にも相談できます。
今日やってみること
今週、家の中の小さな仕事を一つ、子どもに任せてみてください。終わったら「助かった」と一言。評価の言葉は付けません。
事実を伝えても、反応が変わらないとき
ここまでの内容は、多くの家庭で試せる、標準的な見方の切り替えです。ただ、見たことを返すようにしても、しばらく反応が変わらない家庭もあります。やり方がまちがっているのではなく、まだ見ていない条件が2つあるからです。
1つ目は、子どもの気質です。先ほどの表のように、目当てを本人に渡すと届く子もいれば、温度を下げると続けられる子もいます。親が「自分なら嬉しい褒められ方」を基準にしていると、見たまま返しても、その子にとっての引っかかりが残ります。
2つ目は、時期です。外に向かって動きやすい時期と、内側で力をためる時期があります。力をためている時期の子は、見たことを返されても、表情が動かず、反応が返るまでに時間がかかります。この時期に見てほしいのは、言葉への反応ではありません。見せに来る、話しかけてくるといった小さな動きが、減っていないかどうかです。
この記事のポイント
褒めるところが見つからないときは、評価をやめます。そして、手前のやったこと、前との変化、続いていること、人への関わりを、見たまま返します。そのうえで、目当てを本人に渡すのか、温度を下げるのかは、その子の気質と今の時期を見て決めます。
同じ一言が子どもによって違って届く仕組みと、口を開く前に決めることは、声かけ・コミュニケーションのページでまとめています。用件の伝え方で行き詰まっているときは、子どもが言うことを聞かないときの順番と線引きもあわせて読んでみてください。
よくある質問
子どもに自信を持たせる言葉はありますか
特定の言葉より、見たことを一つ返すほうが、自信につながりやすいです。「すごい」の代わりに、「前は飛ばしていた問題を解いてたね」のように、行動や変化をそのまま伝えます。本人が、自分の手応えとして受け取れる形になるためです。
中学生の自己肯定感を高める言葉は?
中学生には、言葉を足すより、評価を減らすほうが届くことが多いです。親の基準で褒められると、白けたり照れたりしやすい年齢だからです。本人が何を目当てにしていたかを聞き、その目当てに合わせて、見たことを返してください。届き方は、気質によっても違います。
褒めて伸ばすことに弊害はありますか
褒めること自体に弊害はありません。ただ、褒めることだけに頼ると、自信が続きにくくなります。大人の基準で褒められ続けると、周りの評価とのずれに戸惑う場面が出てくるためです。褒め言葉に加えて、本人が工夫したことを見たまま受け取る関わりを増やすと、偏りが小さくなります。











