夕食前。リビングのソファでスマホを見ている小学5年生に「宿題は?」と聞くと、「うるさいな」と背中を向けられます。言い方がきつかったかと思い直して、翌日は「そろそろやったら?」と柔らかく言ってみる。返ってくるのは「あとで」。中学2年生の上の子には、そもそも返事すらありません。

言い方の正解を探してこのページにたどり着いた方に、先に結論をお伝えします。同じ一言でも、誰に、どのタイミングで言うかで、届き方は正反対になります。「これを言えば動く」という共通のセリフは存在しません。けれども、届きやすい形に整える手順はあります。

正論が反発か思考停止を生む理由

正しい言葉ほど、受け取る側の選択肢を奪う

「宿題をやらないと困るのは自分だよ」「スマホばかり見ていたら時間がなくなるよ」。どちらも間違っていません。問題は、正しすぎることです。

反論の余地がない言葉を向けられると、子どもに残る道は3つです。従うか、黙るか、押し返すか。そこに「自分で考えて決める」という道はありません。

小学校高学年から中学生にかけて、子どもは親を一人の人間として外側から眺めるようになります。「何を言われたか」だけでなく、「どういうつもりで言われたか」まで読み取ります。正しさは、受け手には「逃げ場のなさ」として届きます。

こども家庭庁の資料「体罰等によらない子育てのために」は、強い叱責について次のように述べています。「叩かれたり怒鳴られたりすると、大人への恐怖心等から一時的に言うことを聞くかもしれませんが、これは、どうしたらよいのかを自分で考えたり、学んでいるわけではありません」。怖さで一時的に従っても、自分で考えて動けるようになったわけではない、ということです。

乳幼児期からの子育て全般を念頭に置いた資料です。それでも、小・中学生との関わりにも同じ構造が当てはまります。言葉の強さで動かした行動は、言葉がなくなった時点で止まります。

言い返す子と、固まる子

冒頭の場面を思い出してください。「うるさいな」と背中を向ける子もいれば、「あとで」と言って動かない子もいます。圧力を感じたとき、子どもの反応は大きく2つに分かれます。

1つは、押し返す反応です。「今やろうと思ってたのに」「うるさい」と言い返し、ドアを閉める。親から見ると反抗そのものです。けれども本人にとっては、自分の領域を守るための行動です。

もう1つは、固まる反応です。言い返さずに「はいはい」「わかった」と答え、そのまま動かない。机には向かうものの、手が進まないこともあります。親からは「聞いてはいるけれどやる気がない」ように見えます。

どちらも怠けではありません。自分で決める権利を、外から動かされそうになったときに起きる自然な反応です。

そして厄介なことに、後者のほうが親には「成功」に見えます。言い返されなかったぶん、同じ声かけが繰り返されます。子どもの側では、「何を言われても心を動かさない」という構えだけが定着していきます。

「素直に聞いた」ように見えるとき

その場で反論が返ってこないことは、納得のしるしとは限りません。言い返す気力を使わずにやり過ごす、という選択をしている場合があります。

反発が減ったのに行動が変わらないときは、言い方が効いたのではありません。対話そのものが閉じている可能性を疑ってください。

今日やってみること

今夜、子どもに何か頼んだら、返事の形をスマホのメモに一行だけ書いてみてください。「言い返し」「はいはい」「無言」のどれだったか、です。直すのは、まだ先でかまいません。

指示を「問い」に変える

指示は結論を渡し、問いは決定権を渡す

「早く宿題をやりなさい」と言うと、何を・いつ・どうするかは、すべて親が決めたことになります。子どもに残る仕事は、従うか従わないかの判断だけです。

一方で問いは、結論の部分を本人に残します。こども家庭庁の同じ資料も、関わり方の工夫として「子どもに問いかけをしたり、相談をしながら、どうしたらよいかを一緒に考えましょう」と挙げています。命令する代わりに聞いて、一緒に考えようという提案です。

文部科学省の生徒指導提要も、子どもが自分で自分を方向づける力について述べています。そのために「自ら考え、選択し、決定する、あるいは発表する、制作する等の体験が何より重要です」としています。自分で決める経験そのものが、力を育てるという考え方です。学校での指導を扱った文書ですが、家庭で決める機会を渡す意味を考えるうえでも参考になります。

次の表は、よくある場面で、指示の形と問いの形を並べたものです。台詞はどれも、たとえばの例です。

場面逆効果になりやすい形問いの形に置き換える何が変わるか
宿題に手をつけない「早く宿題をやりなさい」「今日やることって、何と何だっけ」量の把握と順番の決定が本人に戻る
朝の準備が進まない「まだ着替えてないの」「家を出るまで、あと何分ある?」時間の見積もりを本人がする
スマホが止まらない「いい加減にしなさい」「何時に置くか、自分で決めるとしたら何時?」ルールの起点が本人になる
テストの点が低かった「だから言ったでしょう」「次にやるとしたら、どこから手をつける?」評価ではなく次の行動が話題になる
部屋が散らかっている「いつになったら片付けるの」「片付けるなら、週末とその前とどっちがいい?」期限の中で本人が選ぶ

ポイントは、問いの形にすることではありません。返ってきた答えを実際に採用することです。「何時に置く?」と聞いておいて「10時? 遅すぎる」と却下すれば、それは問いの形をした指示です。子どもは一度でそれを見抜きます。

問いに見えて問いではない言葉

語尾が疑問形でも、答えが1つしかない問いは、尋問として届きます。

問いの形をした指示・詰問

「なんでやらないの?」「やる気あるの?」「何回言わせるの?」は、情報を求める問いではありません。責める気持ちを、疑問形で包んだ言葉です。

返せる答えが「ごめんなさい」しかない問いは、考える機会になりません。謝罪の要求になります。

置き換えの基準は単純です。本人が複数の答えを持てる問いかどうかです。

「いつやる?」「どこから?」「どっちが先?」には、答えが複数あります。「なんでやらないの?」には、責められる以外の答えがありません。

今日から変えられる最小の手順

  1. よく使う指示を1つだけ選ぶ (「早くしなさい」など、1日に何度も言っているもの)
  2. その指示を、答えが複数ある問いに置き換えて書き出しておく
  3. 子どもの答えが自分の想定と違っても、まずはその日は採用して結果を見る
  4. 結果が思わしくなかったときも評価せず、「どうだった?」と本人の振り返りだけを聞く

今日やってみること

今夜、子どもに「今日やることって、何と何だっけ」と一度だけ聞いてみてください。「早くしなさい」と言いたくなったときの代わりに使う一言です。返ってきた答えは、そのまま受け取ります。

ただし、問いに変えれば誰にでも届くわけではありません。同じ問いが、子どもによってはさらに強い圧力として受け取られます。ここからが本題です。

決め手は「何を言うか」より「誰に・いつ言うか」

同じ一言が、3通りに届く

生徒指導提要は、子どもを理解する難しさについて率直に書いています。「経験のある教職員であっても、児童生徒一人一人の家庭環境、生育歴、能力・適性、興味・関心等を把握することは非常に難しいことです」。慣れた先生でも、一人ひとりを知り尽くすのは難しいということです。

こども家庭庁の資料も、「子どもの『言うことを聞かない』にもいろいろな理由が考えられます」と書いています。そのうえで、気を引きたい、本人なりの考えがある、理解できていない、体調が悪いなど、複数の背景を挙げています。

つまり、同じ言葉が同じように届くと考えるほうに、そもそも無理があります。次の表は、「そろそろ始めたら?」という比較的おだやかな一言を例にしたものです。受け取り方の傾向が違う子どもに、この一言がどう届くかを並べました。

受け取り方の傾向この一言がどう届くか起きやすい反応届きやすい形
自分で決めたことしか動かない (無反応に見えても聞いている)決めるタイミングを横取りされた合図返事をせず、そのまま動かない「始める時間が決まったら教えて」と、決定そのものを預ける
細かく管理されると止まり、任されると動く監視されていた、という合図「今やろうと思ってた」で手が止まる「今日の分、どこまでやるかは任せる」と範囲だけ渡す
できていない姿を見られたくない、理由には納得する進んでいないことの指摘話をそらす、取り繕う「どこで引っかかってる?」と中身の相談に寄せる

どれが良い・悪いという話ではありません。問題は、親が「自分に効いた声かけ」を基準にしてしまうことです。

たとえば、任されると動くタイプの親は、子どもにも裁量を渡そうとします。けれども、決めるまでに時間が必要な子にとっては、裁量を渡されること自体が、放り出されたように感じられることがあります。

なお、ここに挙げたのは傾向です。子どもを型にはめるためのものではありません。きょうだいで正反対の反応が返ってくる経験は、多くの家庭にあるはずです。その差は、しつけの結果ではありません。生まれ持った受け取り方の違いによるところが大きいと考えられます。

「いつ」には3つの層がある

言うタイミングも、結果を大きく左右します。タイミングには、長さの違う3つの層があります。

1つ目は、その場の数分です。こども家庭庁の資料は「子どもはすぐに気持ちを切り替えるのが難しいこともあります。時間的に可能なら、待つことで子どもの気持ちや行動が変化するかもしれません」と述べています。急がない用件なら、少し待つだけで変わることがある、という指摘です。帰宅直後、ゲームの途中、動画の途中に割り込む一言は、内容にかかわらず妨害として届きます。

2つ目は、その日の状態です。部活で疲れている日。テストが返ってきた日。友人関係でうまくいかなかった日。そんな日に家庭の課題を持ち出しても、入る余地がありません。

3つ目は、もっと長い周期です。人には、外に向かって動きやすい時期と、内側でエネルギーを蓄える時期があります。蓄える時期にある子どもをいくら押しても、反発か無気力のどちらかが返ってきやすくなります。以前は効いた声かけが今は届かない。その背景には、この層の違いがあることが少なくありません。

今この場で
言う必要があるか
この子には
どう届くか
本人が決められる
形になっているか
言葉を選ぶ
口を開く前の3つの確認。最初の関門で「今ではない」と判断できれば、言葉選びは不要になる

言葉選びは最後の工程です。順番を逆にして言い回しから入ると、うまくいかなかったときに困ります。「自分の言い方が悪かった」と、親が自分を責める材料だけが増えていくからです。

今日やってみること

今夜は、子どもが帰宅してすぐの時間に、用件を一つも言わずに過ごしてみてください。急がない用件は、夕食のあとまで取っておきます。

叱る・褒める場面ごとの線引き

叱る対象を絞る

叱る回数が多いほど、一回あたりの重みは軽くなります。叱ることの効果は、何を叱るかではなく、何を叱らないかで決まります。

扱い場面の例関わり方
はっきり伝える身体の安全に関わること、他人を傷つけたこと、嘘やごまかし短く、その場で、行動だけを
事実として確認する本人が決めた約束が守られなかったとき責めずに「どうする?」と次の取り決めに移る
叱らない勉強の進み方、片付けの程度、親の理想との差、機嫌の悪さ問いかけるか、触れない

伝えるときの形も限定します。行動だけを、短く、その場で。混ぜないものが3つあります。人格 (「だらしない」)、過去 (「前からそうだ」)、比較 (「お姉ちゃんは」) です。どれかを混ぜた瞬間、内容は届かなくなり、傷だけが残ります。長く叱るほど効果が上がることはありません。

今日やってみること

上の表の「叱らない」の行から用件を一つ選び、今週は口にしないと決めて、紙に書いておいてください。たとえば「片付けの程度」です。

褒めるのではなく、認める

テストを見せに来た子に「すごいね」と言ったのに、白けた顔をされる。褒め方についても、正解のセリフを探すより先に確認したい点があります。

国立教育政策研究所の生徒指導リーフは、「大人が子供を『褒める』ときは、一般に大人の基準や水準で『褒める』ことが多いように思われます」と指摘しています。褒めるときの物差しは、たいてい大人の側にあるということです。

そのうえで、リーフは次のように述べています。「子供自身に目標や工夫する点、努力する点などを考えさせておき、その基準に沿ってどこまで達成できたのかを評価することが『認める』という行為では重要になります」。子どもが自分で決めた目当てに沿って見るのが「認める」だ、という整理です。

同じリーフは、表面的な称賛についても書いています。「子供の実際の行動と向き合うことなく、表面的にお世辞を言ったり、ちやほやしたりしても、子供の『自己有用感』はおろか、『自尊感情』すら高めない可能性が高いのです」。行動を見ないまま褒めても、自信にはつながりにくいということです。高学年以降の子どもが「すごいね」に白けるのは、見ていない相手からの評価だと気づいているからです。

実際の言い方としては、評価の言葉を減らし、見た事実を返すほうが届きやすくなります。「すごいね」より「昨日より早く始めてたね」。こども家庭庁の資料も、褒めるときは「何が良いのかを具体的に」伝えると子どもに伝わりやすくなる、としています。

叱る・褒めるに共通する軸

どちらも、親の基準で評価を下すのか、本人の基準を確認するのかで、届き方が変わります。

評価を減らし、観察と質問を増やしてみてください。子どもは親を「採点する人」ではなく、「状況を一緒に見る人」として扱いやすくなります。

今日やってみること

今夜、子どもがやっていたことを一つ見つけて、「〜してたね」と見たままに言ってみてください。「すごい」「えらい」は付けません。

声かけの技術に限界がある理由

ここまでに挙げた内容は、多くの家庭で有効な標準的な整理です。指示を問いに変え、叱る対象を絞り、評価より観察を増やす。これだけで衝突が減る家庭は少なくありません。

ただし、この通りに実践しても手応えが薄いケースがあります。理由は2つあります。

1つは、気質のズレです。同じ問いかけでも、決めることを任されて安心する子もいれば、宙ぶらりんな不安として受け取る子もいます。前者を基準に作られた声かけの手順は、後者には届きません。

もう1つは、タイミングのズレです。蓄える時期にある子どもに、どれほど洗練された問いを投げても、返ってくるのは「別に」です。このとき必要なのは、より良い言い回しではありません。押すのをやめる判断です。

このページの要点

正解のセリフは存在しませんが、届きやすい条件はあります。条件とは、相手の受け取り方の傾向と、今がどんな時期かという2つの見立てです。見立てが定まると、言葉は選ぶまでもなく決まっていきます。

なぜ言い方を変えても変わらないのか、気質とタイミングという2つのズレがどう働くのかは、なぜ「声かけ」を変えても子どもは動かないのかで体系的にまとめています。声かけの本を何冊も試してきた方ほど、先にそちらを読むほうが近道かもしれません。

よくある質問

問いかけても「別に」「わかんない」しか返ってきません

その日の答えを引き出そうとせず、問いを置いたまま引くのが基本です。返事を待つ姿勢が長いほど、子どもは尋問だと感じます。「思いついたら教えて」と伝えて席を立つと、数時間後や翌日に本人から返ってくることがあります。それでも反応がない状態が続くなら、言葉の問題ではなく、今が蓄える時期である可能性を先に考えてください。

下の子に効く言い方が、上の子にはまったく効きません

生まれ持った受け取り方が違えば、同じ言葉は別の意味で届きます。同じ家庭で育てていても、それは起こります。うまくいかないのは、関わり方が足りないからではありません。一方の子に合う型を、もう一方に当てているからです。きょうだいで方法を変えることは、えこひいきではありません。

何度言っても言うことを聞きません。言い方を変えれば届きますか

言い回しを変える前に、用件を分けて、言う順番を決めるほうが先です。家庭で口にしている用件を、「手放さないもの」と「本人に返すもの」に分けます。すべてを同じ強さで言い続けると、子どもにはどれが大事かが見分けられなくなります。小学4年生から中学3年生を対象に、順番と線引きを子どもが言うことを聞かないで整理しています。

感情的に怒鳴ってしまいました。取り返しはつきますか

落ち着いてから短く謝り、伝えたかった中身を一度だけ言い直せば十分です。謝るのは、怒鳴ったという行動についてだけです。長い弁解や、謝罪の後の追加の説教は、子どもを混乱させます。親が感情の処理を引き受ける姿は、そのまま対処の見本になります。怒鳴る回数そのものを減らしたいときは、言い方より先に、疲れや余裕のなさという親側の条件を見直すほうが手がかりになります。

学校に行きたがらない日が増えています。声かけを変えれば戻りますか

登校をしぶる、眠れない、食欲がないといった様子が続くなら、声かけの工夫で対処する段階を超えています。担任の先生やスクールカウンセラー、お住まいの自治体の教育相談窓口に、早めに相談してください。必要に応じて、医療機関にも相談します。家庭でできるのは、登校の話題を一度脇に置き、安心して過ごせる状態を保つことです。