夜9時、小学6年生の息子はまだリビングでゲームを続けています。「早くしなさい」は言わないと決めて、本で覚えた言い方に変えました。「あと何分でお風呂に入れそう?」。返ってきたのは「うるさいな」の一言でした。声かけの本を何冊か読み、ネットの言い換えフレーズも試してきたのに、前より反発が強くなった気がします。

このページにたどり着いた方の多くは、すでにそこまでやってきた方だと思います。先に結論をお伝えします。効かなかったのは、あなたの言い方が下手だからでも、お子さんが頑固だからでもありません。

言葉だけを借りてきて、言葉の外側にある前提が変わっていなかったからです。その前提とは、相手をどう見ているかです。

この子は、言われたことをどう受け取る子なのか。いまは、動きやすい時期なのか。この2つを見ることを、このページでは「見立て」と呼びます。親が持つべきものは、言い回しの技術ではなく、この見立てです。順を追って説明します。

「声かけを変えれば動く」という誤解

フレーズが効かない理由

小学校高学年から中学生にかけて、子どもは親を一人の人間として外側から眺めるようになっていきます。「何を言われたか」だけでなく、「どういうつもりで言われたか」まで読み取る子が増えてきます。

冒頭の「あと何分でお風呂に入れそう?」も、言葉そのものは穏やかです。それでも親が「動かしたい」と焦っていれば、子どもはその焦りまで読み取ります。どれほど穏やかな言葉を選んでも、子どもには「巧妙な指示」として届きます。

本に書いてある通りのセリフを言っても、本に書いてある通りの返事は返ってきません。想定外の無視や反抗に出会った瞬間、親は元の感情的な対応に戻ってしまいます。あとには自己嫌悪だけが残ります。

これは意志の弱さではありません。台本のない場面で台本を読もうとしたことによる、構造的な行き詰まりです。

指示が増えるほど、決める力は育ちにくくなる

朝の玄関で「ハンカチ持った? 体操服は?」と確認する。テスト前には、計画表を作ってあげる。どれも善意から出た行動です。

ただ、親が先回りして指示を出すほど、子どもが自分で考えて決める場面は減っていきます。結果として、子どもが「決める」練習をする機会を、親が引き取ってしまうことになります。

文部科学省の「生徒指導提要」は、子どもが身につけるべき力を「自己指導能力」と呼んでいます。それを獲得するには、「自ら考え、選択し、決定する」体験が何より重要だと述べています。自分で考えて、自分で選んで決める。その経験の積み重ねが要る、ということです。

学校での指導について書かれた文書ですが、家庭での関わりを考えるうえでも参考になります。

「子どものため」の内側にあるもの

先回りの動機をたどると、親自身の安心に行き着くことが少なくありません。「この子が困る姿を見たくない」「このままでは将来が不安だ」という気持ちです。これは責められるべきことではありません。子どもとの境界線が近い親であれば、誰にでも起こる自然な心理です。ただ、その不安から出た言葉は、子どもには圧力として伝わります。

今日やってみること

今夜、寝るまでに子どもにかけた「〜しなさい」「〜したの?」の回数を、紙に正の字で数えてみてください。減らそうとしなくてかまいません。数えるだけで、先回りがどのくらいあるかが見えてきます。

子どもが動かない根本原因は「2つのズレ」にある

言い方を工夫しても結果が変わらないとき、見直すべきは言葉ではありません。相手に対する見立てです。ズレは2つあります。気質とのズレと、タイミングのズレです。

ズレ①: 生まれ持った気質との不一致

同じ言葉をかけても、子どもによって受け取り方はまったく違います。下の表は、よくある場面を3つ並べたものです。親の言葉と子どもの反応は、どれも一つの例です。

子どもの気質の傾向親が言う言葉 (例)子どもの反応 (例)見立てで変わること
自分のペースを大切にし、衝突を避ける「早く決めて。今すぐ返事して」と急かす言い返さない。そのかわり、固まって動かなくなりやすい急かすほど止まる子だとわかる。返事を急がせず、本人のペースで決める時間を残せる
準備が整ってから始めたい「まだやってないの」と途中経過を指摘する自尊心が傷つき、着手がさらに遅れやすい遅れて見えるのは準備の途中だとわかる。途中経過を指摘せずに待てる
気持ちのつながりを大切にする「だって、こうしたほうが得でしょう」と正論で説得する内容より先に「わかってもらえていない」と感じて、心を閉じやすい説得の前に、まず気持ちを聞く順番に変えられる

ここに挙げたのは一部の例で、どれが良い悪いという話ではありません。

問題は、親が「自分が子どものころに効いた関わり方」を基準にしてしまうことです。理由に納得すれば動ける親は、子どもにも理由を説明します。けれども、その子が気持ちを受け止められてから動きたい気質なら、どうでしょう。丁寧な説明ほど、「責められている」と受け取られます。

親の物差しで接している限り、このすれ違いは言葉を変えても解消しません。

ズレ②: タイミングの無視

先週までは、言わなくても宿題に手をつけていた。それが今週は、同じ言葉をかけても動かない。同じ子なのに、反応がまるで違う。そんな週はないでしょうか。

もう一つのズレは、この時期のズレです。人には、外に向かって行動しやすい時期と、内側でエネルギーを蓄える時期があります。

蓄える時期にある子どもに、外から行動を促す。それは、サイドブレーキを引いたままアクセルを踏み込むようなものです。前に進まないだけではありません。反発か無気力のどちらかが返ってきやすくなります。

このとき親にできるのは、指示を強めることではありません。次に動き出す時期に向けて、力を溜められる環境を守ることです。

反対に、動きやすい時期に入った子どももいます。以前の反発を恐れて何も働きかけないでいると、せっかくの機会を逃してしまいます。

タイミング(今はどんな時期か) 気質(どう受け取る子か) 蓄える時期 動きやすい時期 待つ 環境を守り、口を出さない 任せる 決定権を渡し、結果を本人に返す 受け止める 気持ちを聞き、提案はしない 問いかける その子に届く形で選択肢を示す
同じ子でも時期によって、同じ時期でも気質によって、適した関わり方は変わる(考え方を示した模式図)

今日やってみること

今週、子どもが自分から何かに手をつけた日に「○」を、カレンダーに付けてみてください。理由は考えなくてかまいません。一週間並べると、同じ子でも日によって違うことが見えやすくなります。

親に必要なのは「言葉選びの技術」ではなく「客観的な見立て」

うまい言い回しを探す前に、相手の気質と、いまの時期を見る。親に必要なのは、この見立てです。

家庭内のやり取りを「力学」として捉え直す

「スマホ、もうやめなさい」と強く言うほど、子どもは画面から目を離さなくなりやすい。押せば押し返されやすい。これは性格の問題ではなく、人と人のあいだに働く作用と反作用です。

いま子どもが頑固に見えるのは、抵抗しているからかもしれません。親の「動かそうとする力」に対して、自分の領域を全力で守ろうとしている状態です。それは、その子のエネルギーが強い証拠でもあります。

子どもの性格を変える必要はありません。必要なのは、押すのか引くのか、待つのか促すのかを決めるための判断軸です。

相手の気質と、いまの時期。この2つが見えていれば、関わり方はおのずと定まります。言葉は、そのあとに自然についてきます。

気質を見立てる
(どう受け取る子か)
時期を見立てる
(蓄える時期か、動く時期か)
関わり方が決まる
(押す・引く・待つ)
言葉は最後に選ぶ

塾や外部サービスに任せても解決しにくい理由

「身内の言うことは聞かないが、第三者なら動くのではないか」。そう考えて、塾や個別指導に頼る家庭は少なくありません。外部の力を借りること自体は、有効な選択肢です。

ただし、塾ではやるのに家ではやらない、という状態はよく起こります。子どもはその場のルールに従っているだけだからです。自分で決めて動く力が、身についたわけではありません。

外部の先生と過ごすのは、週に数時間です。家庭で過ごす時間は、生活の大部分を占めます。家庭内の空気と判断基準が変わらなければ、外で得た効果は家に持ち帰られません。

塾や学校は、言いなりになる相手でも、丸投げする先でもありません。子どもの自立のために使う道具です。どう使うかを決める軸が親の側にあって、はじめて道具として機能します。

大学生とその親を対象にした調査研究があります(伊藤, 2016, 日本教育工学会論文誌)。親が子どもの自律性を支える関わり方と、子ども自身の自律的な動機づけとのあいだに、正の関連が示されています。自分で決めることを親が支えていると、子どもも自分から取り組む気持ちを持ちやすい傾向がある、という関係です。

対象は大学生なので、そのまま小・中学生に当てはめることはできません。それでも、家庭での関わり方が長く影響しうることを示す知見のひとつです。

今日やってみること

今夜、子どもに言おうと思っていた小言を一つだけ、口に出さずにメモに書いて、明日の朝まで置いておいてください。押さずに一晩待つと、子どもがどう動くかを見る機会になります。

うまくいかなかったのは、あなたのせいではない

誰も体系的に教えてくれなかっただけ

ここまで読んで、「結局、親である私が至らなかったということか」と感じた方がいるかもしれません。そうではありません。

あなたはこれまで、親としてできる限りの労力を注いできたはずです。足りなかったのは熱意ではありません。相手を見立てるための体系的な方法を、学ぶ機会です。

その方法は、学校でも社会でも教わりません。教習を受けずに公道に出れば、誰でも戸惑います。それと同じで、知らなくて当然のことです。

国立教育政策研究所の資料は、子どもの自信について次のように指摘しています。『「褒めて(自信を持たせて)育てる」という発想よりも、「認められて(自信を持って)育つ」という発想の方が、子供の自信が持続しやすい』。

親が何かを「してあげる」ことより、子どもが自分で動いた結果を認められることのほうが、長く効く。そういう意味です。これは、親が背負い込んできた荷物を下ろしてよい、という意味でもあります。

判断軸を持つと、親のほうが先に楽になる

「早くしなさい」と何度も言い、動かない姿にため息をつく。険悪な空気のなかで夕食をとる。その時間と気力が、毎日どれほど失われているでしょうか。

見立てを学ぶことは、やることを増やすことではありません。効果のない声かけと、無駄な小競り合いを「やめる」ための技術です。

押すべきでない時期に押さなくなるだけで、家庭内の衝突は減りやすくなります。変化を最初に感じるのは、子どもより親自身の側かもしれません。

このページの要点

子どもが動かない原因は、言い方ではありません。気質とタイミングという、2つのズレにあります。親に必要なのは、うまい言い回しではなく、相手を客観的に捉える見立てです。見立てが定まれば、押すのか待つのかに迷いにくくなり、親自身の消耗が減ります。

今日やってみること

今夜、子どもが自分から始めたことを一つ見つけて、「〜してたね」とだけ言ってみてください。「えらいね」は付けません。反応がなくても、その話はそこで終えてかまいません。

テーマごとに詳しく読む

具体的な悩みから読みたい方は、次のページからどうぞ。

まずは「我が子の設計図」を知ることから

なぜ、あの子はいま動かないのか。その理由を客観的に読み解く第一歩は、お子さんの生まれ持った気質の傾向を知ることです。親子スイッチでは、そのための性格タイプ簡易診断のご案内を準備しています。

よくある質問

うちの子は特別に頑固です。親が関わり方を変えるだけで変化はありますか

子どもの性格を変えようとする必要はありません。親の側の働きかけが変わると、子どもは反発する必要がなくなります。そこから、反応が変わっていくことがあります。

ただし、変化の出方や時間のかかり方は家庭によって異なります。すぐに結果を求めず、まずは衝突の回数が減るかどうかを目安にしてください。

仕事と家事で手一杯です。新しく学ぶ余裕がありません

新しい時間をつくる必要はありません。見立ての考え方は、いま毎日使っている説得や小言の時間を減らすためのものです。まずは「今日は言わない」と決める場面を一つ選ぶところから始められます。

不登校や発達の特性が気になっています。このサイトの方法で対応できますか

本サイトの内容は、医療や心理の診断・治療に代わるものではありません。登校しぶりが続く、眠れない、食欲がない。こうした様子があるときや、発達の特性について心配があるときは、早めに相談してください。相談先は、担任の先生やスクールカウンセラー、お住まいの自治体の教育相談窓口、医療機関です。