日曜の午前。小学6年生の子の算数のプリントに、赤ペンで丸をつけていきます。前の週に解けていた問題が、また間違っている。「これ、先週もやったよね」と言った自分の声が、思ったより冷たく響く。子どもが席を立ったあと、スマホで「中学受験 親のエゴ」と検索している。

先に結論をお伝えします。エゴか愛情かの二択で考えるかぎり、答えは出ません。見るところは、動機ではなく心配の出どころです。

その心配は、今日のこの子の様子から出てきたのか。それとも、頭の中にある将来の絵から出てきたのか。この2つは、同じ言葉になっても届き方が変わります。

心配の出どころを分けると、言う言葉が決まる

心配は2種類に分けて扱います。この分け方だけで、今日言う言葉が決まります。

  • 観察から出た心配: 今日のこの子の様子に根拠があるもの
  • 想像から出た心配: 頭の中の将来の絵から出てきたもの

観察から出た心配は、そのまま本人に渡せます。根拠が本人にも見えているからです。

想像から出た心配は、本人に渡しても使えません。将来の絵は親の頭の中にしかないので、受け取った側には要求として届きます。

同じ場面で、どちらから出た言葉かによって、返ってくる反応が変わります。

場面親がこう言うとこう返ってきやすい
同じ問題を2週続けて間違えた「先週もここで止まってたね。どこで引っかかる?」「この式のところが分かんない」
同じ問題を2週続けて間違えた「これ、何回やったら覚えるの」「わかんない」で終わり、どこで引っかかったかは出てこない
模試の順位が下がった「今回、自分ではどこが重かった?」「国語の記述で時間が足りなかった」
模試の順位が下がった「この成績だと、行ける学校がなくなるよ」「もうやめる」と言うか、次の模試の話ができなくなる

表の2行目と4行目が、想像から出た心配です。心配の中身は1行目・3行目と同じです。言葉に将来の絵が混ざっただけで、返ってくるものが変わります。

想像から出た心配は、消さなくてよい

将来の絵が浮かぶこと自体は、直す必要がありません。受験を選んだ家庭では、誰にでも浮かびます。

変えるのは扱い方だけです。本人に渡さず、親の側で引き取ります。引き取り先は次の節で決めます。

今日やってみること

今日、子どもに言いかけた心配を1つ思い出してください。その根拠が「今日見たこと」なのか「将来の絵」なのかを、紙かスマホのメモに一言書いてみてください。

「親のエゴ」と言われる3つの言い方を、責めずに整理する

「中学受験は親のエゴ」という言葉は、たいてい3つの形で来ます。学歴、世間体、小学生らしい生活です。

  • 学歴: 「自分が行けなかった学校に行かせたいだけだ」
  • 世間体: 「周りが受験するから焦っているだけだ」
  • 生活: 「小学生らしい時間を奪っている」

3つに共通しているのは、動機の善悪ではありません。どれも、心配の出どころが目の前の子どもの様子ではないという点です。

出どころが頭の中にあるだけなら、まだ何も起きていません。言葉として本人に渡したときに、要求に変わります。だから「エゴ」と呼ばれる形になります。

世間体を気にするのも、学歴を気にするのも、弱さではありません。社会の中で子どもを育てていれば、誰にでも働く力です。

想像から出た心配は、置き場所を先に決める

置き場所を決めておくと、本人に渡さずに済みます。我慢ではなく、行き先の変更です。

想像から出た心配置き場所置き方
この成績で間に合うのか塾の先生面談を待たず、質問を1つだけメールで送る
志望校を下げるべきか配偶者・パートナー子どもがいない時間に、15分だけ話す
周りの家はどうしているのか紙書いて閉じる。保護者同士の会話に持ち込まない
親としてどう見られるか紙「誰に何と言われるのが怖いのか」を1行書く

いちばん効くのは、紙の行です。言葉にして置くと、同じ心配が夜に戻ってきにくくなります。

今日やってみること

今週、塾の先生に聞きたいことを1つだけ紙に書いてください。書いたら、その話は子どもの前でしないと決めてください。

場面別の切り替え方

受験中に心配が強く出る場面は、3つに絞られます。丸つけの最中、成績が下がった日、志望校を決めるときです。

丸つけの最中

丸つけは、できるところから本人に返します。

間違いを見つける仕事は、本来は本人の仕事です。親が全部つけていると、その仕事まで親のものになります。

一度に全部は渡せないので、順番を決めます。

丸つけを本人に返す順番

  1. 答え合わせだけ本人がやる。親は結果を見ない
  2. 間違えた問題に印をつけるところまで本人がやる
  3. 直しをどこから始めるかを本人が決める

親の側に残す仕事は1つだけです。終わった時刻と進んだ分量を、事実として知っておくことです。評価の言葉は足しません。

成績が下がった日

その日は、点数の話をしないでおきます。

下がった事実は、本人がすでに知っています。知っていることを言葉にしても、本人の手元の情報は増えません。残るのは、見張られている感触だけです。

代わりに、聞く順番を変えます。先に本人の手応えを聞き、親の感想はそのあとに回します。

話す時間も、その日の夜から翌日に移してかまいません。数日遅れても、受験の結果は変わりません。

志望校を決めるとき

学校名の話より先に、親の側の条件を事実として出します。

条件とは、通学にかけられる時間と、家から出せる費用の上限です。これは親の手元にしかない情報なので、親が言う番です。

一方、「どこに行きたいか」は本人の手元にしかありません。だから、ここは本人が言う番になります。

こども基本法は、こども施策の基本理念の1つとして、こう挙げています。「全てのこどもについて、年齢及び発達の程度に応じ、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会・多様な社会的活動に参画する機会が確保されること」。

平らに言えば、自分に関わることについて意見を言う場があること、です。志望校は、本人に直接関係する事項の代表例です。

成人を対象にした調査もあります。経済産業研究所 (RIETI) が公開した研究で、「幸福感を決定する変数として自己決定に注目し、2万人の日本人を対象に調査を実施」したものです。

報告では、世帯年収や学歴より、自己決定の指標のほうが主観的幸福感に強く関わっていました。入学難易度から見た学歴については、幸福感を説明する力がはっきり見られなかったとも書かれています。

受験をやめなさい、という話ではありません。どの学校に入ったかより、自分で決めたという経験のほうが後に残りやすいということです。

今日やってみること

今週の丸つけを1回だけ、答え合わせから本人に渡してください。親は終わった時刻と分量だけを見て、点数には触れないでおきます。

費用と始める時期、「向いているか」の見方

費用と時期は、平均の数字を目安として置いておきます。

文部科学省の令和5年度子供の学習費調査では、公立小学校に通う子の学校外活動費は、1年間で1人あたり256,489円でした。塾に通っていない家庭も含んだ平均です。受験のために通塾している家庭の実額は、これを上回ります。

同じ調査には、お金の中身が変わる学年も出ています。「公立では小学校第6学年以降において、私立では小学校第4学年以降において、『補助学習費』の割合が『その他の学校外活動費』の割合を上回っている」。

補助学習費は塾や家庭教師などの費用です。その他の学校外活動費は、習い事やスポーツなどです。平均で見ると、公立小学校では6年生から、お金の中心が習い事から勉強に移っています。

始める学年に、決まった正解はありません。判断の材料になるのは、家の中の様子です。

  • 睡眠が削られていないか
  • 食事の時間が守れているか
  • 勉強以外の話が、家の中に残っているか

この3つが崩れていなければ、今の進め方は合っています。崩れているなら、見直すのは本人の適性ではなく量と時期です。

向いているかどうかも、性格を仕分ける話ではありません。中学受験に向いてる子かどうかを特徴で仕分ける前に見ることでは、進め方の側から確かめる方法を整理しています。

続けるかどうかで迷っている段階なら、中学受験をやめた方がいい子かどうかの判断の手順のほうが近いはずです。

悩みの中心が、エゴかどうかより、受験の仕事が自分に集まって疲れていることなら、中学受験に疲れた母が、親の担当を減らす順番も読んでみてください。

眠れない、頭痛、朝起きられないといった様子が続くときは、勉強の問題として扱わないでください。担任の先生やスクールカウンセラー、自治体の教育相談窓口、小児科などに早めに相談してください。

今日やってみること

今夜、子どもの睡眠時間と、勉強以外の話をした時間を思い出してください。どちらかが削られていたら、来週の予定から1つ減らしてください。

同じ言葉でも、子によって届き方が変わる

ここまでは、多くの家庭で効く標準的な整理です。ただ、この通りにしても手応えが見えないことがあります。

理由は2つあります。1つは生まれ持った気質、つまり物事の受け取り方の傾向です。もう1つはタイミングです。

子どもの受け取り方の傾向「今回、自分ではどこが重かった?」がどう届くか先にやること
自分のペースで進めたい。丸つけの途中で横から口を出されると、間違い探しそのものに手が止まる問いの中身より、答えを待たれている時間が重く残る。その場では手が動かなくなる問いを1行だけ紙に書いて置き、親は席を外す。本人が呼ぶまで戻らない
考えが自分の中で形になるまで口に出さないその場は「別に」で終わる。答えは数日たってから出てくる条件だけ先に出し、学校名の話は本人が言い出す日まで待つ

同じ問いかけでも、残るものが違います。ここに挙げたのは傾向で、子どもを分類するためのものではありません。

タイミングも効きます。人には、外に向かって動きやすい時期と、内側で力を蓄える時期があります。蓄える時期に押すと、反発か無気力が返ってきやすくなります。

この記事の要点

エゴかどうかは、動機では決まりません。心配の出どころで決まります。

観察から出た心配は本人に渡す。想像から出た心配は、親の側で置き場所を決める。そのうえで、この子の受け取り方と今の時期を見ます。

見立ての作り方は、中学生の子どもへのイライラが止まらないときの境界線のページでまとめています。

よくある質問

中学受験で親がやってはいけないことは?

やってはいけないことを数えるより、引き受けすぎている仕事を1つ返すほうが先です。丸つけ、やる順番の決定、間違いの発見。この3つは本人に戻せます。親の側に残すのは、費用と通学範囲、そして生活の土台です。

中学受験の親はおかしいと言われるのはなぜですか

動機ではなく、心配の出どころが目の前の子から離れているときに言われます。学歴、世間体、小学生らしい生活。どの形で言われても、指しているのは同じ場所です。頭の中の将来の絵から出た言葉が、本人には要求として届いている状態です。出どころを戻せば、同じ受験でも家の中の空気は変わります。

中学受験の準備はいつから始めればよいですか

決まった正解はありません。家の生活が崩れていないかで決めます。睡眠、食事の時間、勉強以外の話。この3つが保てている範囲が、今のその家で続けられる量です。平均で見ると、公立小学校では6年生から、学校外にかけるお金の中心が習い事から勉強に移っています。学年の数字ではなく、家の様子を目安にしてください。