土曜の夕方、塾からの帰り道。「今日のテスト、どうだった」と聞くと「ふつう」とだけ返ってきて、そのあとは並んで歩くだけになります。家に着いても、テキストは鞄から出てきません。入塾してから半年、こういう日が増えました。子どもが寝たあと、台所で「もう、やめた方がいいのかもしれない」と口に出してみる。相手も黙ってうなずくだけでした。

この段階で手に入れたいのは、やめるべき子の特徴リストではないはずです。要るのは、今がどちらの状態なのかという判断でしょう。「やめた方がいい子」という固定の型はなく、あるのは、いったん止めた方がいい状態と、立て直せば戻る状態の2つです。この2つは見分けがつきます。

見分け方と順番は、次のとおりです。心身の不調が出ているなら、やめるか続けるかを考える前に、まず受験の進行を止めて相談してください。不調が出ていないなら、結論を出す前に量 → 時期 → 目標の順で立て直しを試します。そのうえで戻らなければ、やめるのは逃げではなく、材料のそろった選択です。以下、それぞれを具体的に書きます。

「やめる」か「続ける」かの前に、量・時期・目標の順で立て直す

迷っている段階でまずやることは、受験の是非を話し合うことではなく、今かかっている量を2週間だけ落として、同じ子がどう動くかを見ることです。やめるか続けるかは、量を戻したあとの姿を見てからでも遅くありません。

手をつける順番には理由があります。量は今日から動かせて、戻すのも簡単です。時期(いつ結論を出すか)は、日付を1つ置くだけで家の中の緊張が下がります。目標(どこを受けるか、何のために受けるか)はいちばん動かしにくいので、最後に回します。この順に試すと、やめる判断そのものが「追い詰められての決断」ではなくなります。

1 量を戻す(2週間)
2 結論を出す日を置く
3 目標を置き直す
続けるかやめるかを材料ありで選べる
立て直しの順番。1つ目が効けば2つ目以降は要らないこともある

最初の2週間でやること

  1. 期間を2週間と先に区切り、塾の課題のどれをやってどれを飛ばすかを本人に決めてもらう。親は「全部はやらない」を前提として先に伝えておく
  2. その2週間は、テストの点数と順位、志望校の話を家庭で出さない
  3. 2週間後に話す日をカレンダーに書き、その日までは受験を続けるかどうかの話題も出さない

2週間という長さには意味があります。1週間だと、単に疲れが抜けただけなのか、動き方そのものが変わったのかを見分けられません。逆にひと月以上空けると、塾の進度との差が大きくなって、戻るときの負担が増えます。

立て直しのつもりで逆効果になりやすい関わり方

1つ目は、「やめてもいいんだよ」を毎日くり返すことです。言う側は逃げ道を用意したつもりでも、受け取る側には「見限られた」という合図として届くことがあります。言うなら期間中に一度だけにしてください。2つ目は、量を落とす前に塾を変えること。環境が替わると、量が合っていなかったのか塾が合っていなかったのかが、どちらも確かめられなくなります。3つ目は、落とした量の分だけ家庭学習を足すことです。それでは何も戻していません。

やめた方がいいサインと、立て直せばよいサイン

心身の不調は「やめるサイン」ではなく、「いったん止めて相談するサイン」です。やめるかどうかの判断材料に混ぜず、別のものとして扱ってください。受験を続けるか降りるかを決めるのは、体と気持ちが戻ってからで間に合います。

厚生労働省の「こころもメンテしよう」は、家族が日常の中で気づきやすい子どものSOSサインとして、睡眠・食欲・体調・行動の4つの面を挙げています。具体的には「布団に入っても、なかなか寝つけないようだ」「食欲がない、食べる量が減った」「腹痛や頭痛、めまい、吐き気などを訴える」「何もしないで長い間ぼんやりしている」といった変化です。同じサイトは「つらい症状が続いている場合は、専門家に相談してみることをお勧めします」とも書いています。

見えている姿どう扱うか
寝つけない、朝起きられない、腹痛や頭痛を訴える、食が細くなる、ぼんやりしている時間が増えた受験の進行をいったん止めて、相談先に当たる。成績の話と混ぜない
塾の宿題が終わらず、毎晩もめる量の立て直し。やる分とやらない分の線を本人に引いてもらう
「やめたい」と口にするその場で結論を出さず、量を戻してから聞き直す
通ってはいるが、成績が半年変わらない目標の置き直し。受ける学校の組み合わせから見る
親の側が、朝から受験のことばかり考えている親の持ち分を減らす。判断の材料を集める役に戻る

相談先は、受験の相談先とは別に持っておく

体の不調が続くときはかかりつけの小児科へ。気持ちの落ち込みや眠れない状態が続くときは、学校の担任やスクールカウンセラー、自治体が置いている教育相談の窓口にご相談ください。夜間や休日でも、文部科学省の「24時間子供SOSダイヤル」(0120-0-78310)に、子ども本人からも保護者からもかけられます。塾の面談は進路の相談先であって、心身の相談先ではありません。

5年生でやめる家庭が多いと言われる理由と、6年生で迷うとき

小学5年生は、子どもが変わる学年ではなく、かかる量が変わる学年です。「5年で辞める人が多い」と言われる背景には、本人の資質より先に、この量の段差があります。

文部科学省の令和5年度子供の学習費調査を見ると、公立小学校に通う子の「補助学習費」(塾や通信教育、参考書など、学校の勉強に関係する学習のために家庭が出した費用)は、学年が上がるにつれて増えていきます。4年生でおよそ11万7千円、5年生でおよそ14万3千円、6年生でおよそ18万7千円です。一方で、習い事やスポーツなどの「その他の学校外活動費」は、4年生の15万5千円から6年生の12万1千円へと減っていきます。

公立小学校に通う子の補助学習費(年額・学年別) 8.1 6.6 7.6 11.7 14.3 18.7 1年 2年 3年 4年 5年 6年 単位は万円。文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」図5より
家庭の支出で見ると、段差は4年生から5年生にかけて来る

同じ調査は、公立では小学校6年生以降になって初めて、「補助学習費」の割合が「その他の学校外活動費」の割合を上回ると書いています。言い換えると、多くの家庭で、勉強以外の時間が勉強に明け渡されるのは6年生からです。5年生はその一歩手前で、量だけが先に増える学年にあたります。

ここで起きていることは、「向いていないことが5年生で露見した」ではありません。それまで成立していた量と時間の配分が、同じやり方のままでは成立しなくなった、という話です。だから最初に試すのは、資質の見直しではなく量の立て直しになります。

6年生で迷っている場合も、選択肢は「やめる」か「このまま走り切る」かの2つではありません。受ける学校の数を減らす、入試日程の組み方を変える、通う回数を週単位で減らす、志望校の層を入れ替える。どれも受験をやめずに量を下げる手です。学年が上がるほど、やめる以外の中間の手が増えると考えてください。

判断の材料のそろえ方と、本人と決める日

材料は親が集め、結論は本人と決めた日に出します。この分担をはっきりさせるだけで、話し合いの空気が変わります。材料が足りないまま結論だけを求めると、親も子も、その場の感情で答えることになるからです。

判断に要るもの集めるのは決めるのは
塾の課題量、通塾の曜日と時間、かかる費用親親(本人に伝えるところまで)
受けられる学校の候補と入試日程親親が並べ、本人が選ぶ
受けたい理由、やめたい理由本人本人
続けるか、やめるか両方で持ち寄る本人(親は条件を1つだけ出す)
やめた場合に、代わりに何をするか一緒に本人

「親は条件を1つだけ出す」というのは、たとえば「続けるなら、眠る時間はここより後ろにしない」「やめるなら、代わりに何をするかを先に決める」といった線です。条件が3つも4つもあると、本人の側には「どうせ親が決めている」としか見えなくなります。

そのうえで、結論を出す日を先にカレンダーに書いてください。「落ち着いたら話そう」は、いつまでも来ません。日付が決まっていると、それまでの毎日は判断の日ではなくなるので、夕食のたびに受験の話が出る状態から降りられます。決める日に決まらなければ、次の日付をその場で置き直せば十分です。

当日の聞き方について、厚生労働省は家族向けの案内で「聞き役に徹して真剣に耳を傾けましょう。途中で意見を差しはさんだり、『それは違う』と否定したり、動揺して大声を出さないよう心がけてください」と書いています。受験の話し合いでも同じで、親が材料を説明し終えたら、そのあとは聞く側に回るだけで足ります。

やめたあとの道と、「やめてよかった」と言える家庭がしていること

中学受験をやめても、勉強の山がなくなるわけではありません。山の位置が中学3年生に移るだけです。先ほどの学習費調査では、学校外活動費を学年別に見たとき、公立で最も多いのは中学3年生のおよそ44万6千円でした。小学6年生のどの金額よりも大きい数字です。

これは脅しではなく、安心材料として読んでください。やめる判断が「勉強から降りる判断」ではないとわかると、決める側の重さが変わります。公立中学校に進んで高校受験に向かう道は、量の山が3年後ろにずれた道であって、学びの総量が減る道ではありません。公立中高一貫校を受検する場合の考え方は、公立中高一貫校に向いている子とはで扱っています。

「やめてよかった」と振り返っている家庭に共通しているのは、やめた理由の立派さではなく、やめ方のほうです。

やめ方で変わる3つのこと

  1. 本人が決める場に居たか。親が決めて通告した形だと、あとから「勝手に決められた」が残ります
  2. やめたあとの最初の1つが決まっているか。部活でも、通信教育でも、学校の宿題を自分で回すことでもかまいません。空白のまま終えると、本人の中では「失敗して退いた」として記録されます
  3. やめた理由を、あとから家族の中で言い直していないか。「あのとき頑張れていれば」と後日つけ足すと、決着したはずの話が何度も開き直されます

塾への伝え方で迷う必要はありません。退塾の意思は、理由を細かく説明しなくても伝えられます。引き止めの提案(コース変更や曜日の調整)は、量を下げる中間の手として聞く価値がありますが、その場で返事をしないと決めておくと、家で決めた線が崩れません。

同じ順番で立て直しても、戻る子と戻らない子がいる

量・時期・目標という順番そのものは、どの家庭でも先に試せる並びです。ただ、同じ順番で進めても、1段目で戻る子と、3段目まで行っても何も動かない子がいます。順番が間違っているからではなく、どの段がその子に効くかが違うからです。

たとえば、量を落としても変化が出ない子がいます。やることの多さが負担なのではなく、何をやるかを自分で決められないことが負担になっている子です。この場合、2週間の裁量を本当に本人に渡しきれているかを見てください。「飛ばしていいよ、ただしこの単元は残して」と親が線を引き直した時点で、渡したことになりません。

逆に、材料をきれいに並べて見せても、決める場で何も言わない子もいます。親が結論まで用意してしまうと、内容が妥当であるほど手がつかない。この子に効くのは説得ではなく、結論を出す日を本人の手に置くことです。日付を本人に選んでもらい、その日まで親からは何も足さない。それだけで、当日に自分の言葉が出てくることがあります。

もう一つ、2週間の結果を読むときに見落としやすいものがあります。その2週間が、本人にとってどういう時期だったかです。人の調子には、力が外へ出てくる時期と、力が内側に置かれたままになる時期があります。後者に当たっていた2週間は、量を落としても目に見える変化が出ません。ここで「立て直しても戻らなかった」と結論づけると、時期の問題を資質の問題として片づけてしまいます。同じ試行をもう一度、間を空けてやってみる価値があるのはこのためです。

決める前に、順番で確かめる

やめるか続けるかを決める前に、量を2週間戻し、結論を出す日を置き、最後に目標を置き直す。心身の不調が出ているときは、この順番より先に相談先へ。そのうえで、どの段が効くかは、本人の受け取り方と、その2週間がどの時期に当たっていたかで変わります。

ここで要るのは、やめる基準のリストをもう1つ手に入れることではありません。この子は量に反応するのか、決定が誰の手にあるかに反応するのかを、先に見当をつけておくことです。受験を続けるにしても降りるにしても、家の中で止まっている行動をどう扱うかという問いは残ります。その扱い方は勉強・スマホなどの行動課題に集めました。続けると決めたあとの進め方を見直すときは、中学受験に向いてる子より先に見る「進め方が合っているか」が参考になります。親の持ち分と本人の持ち分を切り分ける考え方そのものは、10歳前後で関わり方を切り替える順番で整理しました。

よくある質問

中学受験をやめて後悔した理由は何ですか

後悔が残りやすいのは、やめた事実ではなく決め方のほうです。親だけで決めて通告した、感情が高ぶった日にその場で決めた、やめたあとに何をするかを決めずに終えた。この3つが重なると、同じ結論でもあとから何度も蒸し返されます。逆に、材料をそろえて日を決めて本人と話した家庭では、やめた判断そのものが本人の経験として残ります。

子どもが中学受験を辞めたいと言い出したときはどうすればいいですか

その場で結論を出さず、量を2週間だけ戻してから聞き直してください。「やめたい」は、受験そのものを降りたいという意味のこともあれば、今の量がもう持たないという意味のこともあります。言葉だけでは区別がつきません。量を落として同じ言葉がまだ出るなら、それは受験についての意思です。出なくなるなら、量の問題だったことになります。

中学受験はいつ諦めるべきですか

学年や時期で決めるより、立て直しを試したあとに決めるほうが確かです。「5年生までに決めるべき」「6年の夏が最後」といった期限は、塾のカリキュラム上の都合であって、その子の状態とは別のものです。ただし、心身の不調が続いているときだけは例外で、立て直しの手順より先に進行を止めて、学校や医療機関に相談してください。