平日の午後10時。塾から帰ってきた中学2年生が、カバンを玄関に置いたままソファで動画を見ています。定期テストまであと3日。「ワークは終わったの」と聞くと、画面から目を離さずに「あとでやる」。日付が変わるころに部屋をのぞくと電気は消えていて、机の上のワークは開いた跡がありません。

言えば反発され、黙っていれば何も起きない。それなら、どこまで放っておいてよいのでしょうか。先に線を引いておきます。放っておいてよいのは、いつ・どの教科を・何時間やるかという勉強の中身です。手を離さないほうがよいのは、学習のつまずき・睡眠と体調・学校とのつながりの3つです。

もうひとつ、先にお伝えしておきたいことがあります。手を引くときに、全部を同時にやめないでください。外す順番は、代わりの仕組みを用意しなくてよいものからです。評価、点検、段取りの順になります。

放っておいてよいこと、手を離さないほうがよいこと

中学生になると、自分のやり方を外から決められることへの抵抗が強くなります。勉強の進め方を指定されるほど手が止まりやすくなるのは、そのためです。一方で、本人の力だけでは取り返しにくい領域まで手を離すと、勉強の問題ではないものが、勉強の問題の形で現れてきます。

領域どうするかそう決める理由
いつ始めるか、何時間やるか放っておく失敗しても本人の手で取り返せる。指定されるほど自分に合うやり方を試す機会が減る
どの教科からやるか、進め方放っておく合う進め方は人によって違い、外から当てて渡すのが難しい
テストの点数や順位への感想放っておく結果を受け止めるのは本人の仕事。感想を足しても本人の手元の情報は増えない
学習のつまずき手を離さない(親が教えるのではなく、受け皿につなぐ)前の学年の未定着が原因の場合、本人の意欲だけでは戻りにくい
睡眠と体調手を離さない健康は、崩れたときの回復に他者の手が要る領域
学校とのつながり手を離さない先生とのやり取り、進路の手続き、行き渋りの兆しは家庭の外につながる話
テストや提出物の日程情報として共有する判断材料が増えるだけで、いつ手をつけるかの決定は本人に残る

はじめの3行は、放っておいても失われるものが少ない領域です。続く3行は、気づくのが遅れるほど選べる手が減っていく領域です。最後の1行は、どちらでもありません。伝えても決定は本人に残るので、手を引いたあとも家庭に残しておけます。「放置か、口出しか」ではなく、「どの領域を放っておくか」で考えると、迷う場面が一気に減ります

3段まとめて外すと、受け皿のない空白ができる

評価・点検・段取りを同じ日にやめると、代わりを置かなくてよいのは1段目だけなのに、受け皿の要る2段目と3段目まで同時に空きます。日程を確かめる先が家からなくなり、つまずいている教科は行き先が決まらないまま残ります。空白が広いほど埋め直したくなるので、外したはずの3段が数日後にひとまとめで戻ってきます。外すのは1段ずつ、代わりを置いてからにしてください。

その「勉強しない」がどの種類かを、手を引く前に一度だけ確かめる

同じ「机に向かわない」でも、起きていることは一つではありません。ここを確かめずに手を引くと、放っておいてよい子には効き、手を離さないほうがよい子には、つまずきがそのまま積み上がっていきます。手を引く前に一度だけ、次の3つのどれに近いかを見てください。

家から見える様子起きていること放っておいてよいか見分ける手がかり
教科書を開いても進まない。テスト前だけ長く座るが点数が動かない分からなくて止まっている放っておかない。ただし親が教える役に回るのではなく、受け皿につなぐ特定の教科だけ極端に落ちている。前の学年の内容を聞くと答えが出てこない
座るまでが長い。始めればそれなりに進む始める入口で止まっている放っておいてよい領域。環境と段取りだけ整える一度始めた日は最後までやっている。取りかかる前にスマホを触る時間が長い
机に向かう時間が一日のどこにもない時間の余裕が残っていない放っておかない。やる気ではなく総量の問題として扱う就寝が毎日午前0時を回る。朝は自力で起きられない。部活と塾で帰宅が遅い

3つ目は、やる気の話に見えて睡眠の話であることがあります。厚生労働省の e-ヘルスネットに掲載された解説(秋田大学大学院の三島和夫教授による)は、こどもの睡眠について「中学・高校生は8〜10時間の睡眠時間を推奨しています」と述べ、「眠気のためにもうろうとして授業に集中できず、学習障害や注意欠陥多動性障害などの発達障害と間違われてしまったケースもあります」とも記しています。家で勉強しないという見え方の下に、睡眠不足が隠れている場合があるということです。この場合に必要なのは声かけではなく、帰宅時刻と就寝時刻の組み直しです。

手を引く前の1週間でやること

  1. 直近2回分のテストを教科ごとに並べ、特定の教科だけが落ちていないかを見る
  2. 平日の就寝時刻と起床時刻を、1週間だけ記録する(本人に書かせず、親の側で控える)
  3. 机に向かうまでの時間と、始めてからの時間を分けて眺める
  4. 分かったことを本人に確かめに行かない。確認した瞬間に点検になるので、親の側の見立てとして持っておく

4つ目が大事なところです。ここで「あなたは数学でつまずいてるよね」と伝えると、手を引く前に一度大きく踏み込むことになり、その後どれだけ黙っていても、子どもの側には踏み込まれた記憶だけが残ります。見立ては、受け皿を用意するときに使ってください。

眠れない日が続く、朝起きられない日が増えた、学校に行きたがらない、食欲が落ちている。こうした様子が重なっているときは、勉強の話としては扱わないでください。担任の先生やスクールカウンセラー、お住まいの自治体の教育相談窓口には、親だけでも相談できます。文部科学省は「24時間子供SOSダイヤル」(0120-0-78310、通話無料)を案内しており、子どもからも保護者からも相談できます。心身の不調が続くときは医療機関にもご相談ください。

親が手を引く順番

手を引く順番を決める基準は、子どもの反発が小さい順でも、親が我慢しやすい順でもありません。代わりの仕組みを用意しなくてよいものから外す、という順番です。

評価をやめる
(点数や順位への感想)
点検をやめる
(やったの・何時間やったの)
段取りの指定をやめる
(今からやりなさい・数学からやりなさい)
日程の共有と生活の土台だけが手元に残る
手を引く順番。代わりの受け皿が要らないものから外し、1段ごとに2週間ほど様子を見る

1段目の評価は、やめても代わりが要りません。点数も順位も、本人はすでに知っています。親の感想が加わっても、本人の手元にある情報は増えず、ただ結果が親のものとして扱われた感触だけが増えます。だから最初に外せます。

2段目の点検には、代わりが1つ要ります。テストの日程、提出物の締切、面談や部活の予定を書き出しておく場所です。口で確かめていたことを、そこに置き換えます。置き場所ができる前に確認をやめると、家庭から日程の情報まで消えてしまいます。

3段目の段取りの指定を外すには、代わりが2つ要ります。学校の授業と、必要なら学校の外の学習の場です。先ほどの3種類のうち「分からなくて止まっている」に近い子は、ここを最初に外されると行き場がなくなります。順番が最後になるのはそのためです。

最初の4週間の進め方

  1. 1〜2週目:テストが返ってきても点数に感想を足さない。「見たよ」とだけ言って本人に返す
  2. 3〜4週目:「やったの」を口に出すのをやめ、日程と締切を一か所に書く。書いたら、その件についての親の仕事は終わりと決める
  3. つまずきが見えている教科だけは、段取りの指定を最後まで残してよい。外すのは、学校や学校外の受け皿ができてから
  4. どの段でも、外したことを本人に宣言しない。「もう言わないことにしたから」は、それ自体が新しい圧になる

文部科学省が不登校の支援について出した通知は、支援の視点として「児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要があること」を挙げています。学校向けの文書ですが、目的地の置き方は家庭でも変わりません。手を引くのは関わりを減らすためではなく、決める役を本人の側に移していくためです。

順番を守る理由

3段を同時に外すと、効いた段と早すぎた段の区別がつきません。1段ずつなら、戻すときも1段だけで済みます。戻すこと自体は失敗ではなく、順番が見えたという情報です。

手を引いたあと、何を見て判断するか

手を引いてしばらくすると、たいていの家庭で「これで本当によいのか」という時期が来ます。ここで成績だけを見ると、判断を誤りやすくなります。

東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が、全国の小学1年生から高校3年生までの子どもと保護者を対象に2015年から続けている調査では、学校外の学習時間の11年間の変化について「中学生が19分減少した。どの学校段階も約2割減少した」と報告されています。宿題以外の学習をしない層については、「宿題以外の学習をしない家庭学習0分層は、この11年で10ポイント前後増加し4~5割となった」とされています。

この数字の読み方には注意が要ります。示されているのは「宿題以外」の学習であり、宿題は済ませている子も含まれます。調査の方法も年によって異なり、郵送とWEBの併用だった年とWEBのみの年が混ざっているため、年どうしを並べるときには幅を見ておく必要があります。同じ調査では「成績上位層は下位層に比べて学校外の学習時間が長く、宿題以外の家庭学習時間の差が大きい」とも報告されていますが、これは同じ時点で観測された関係であって、家庭学習を増やせば成績が上がるという因果を示したものではありません。

それでもこの数字が伝えるのは、家で宿題以外の勉強をしない中学生は、例外的な存在ではないということです。手を引いた翌月に家庭学習の時間が増えていないことを、失敗の証拠として数えなくて大丈夫です。

では何を見るか。判断の材料を、次の3つに絞ってしまうのが現実的です。

見るものよい方向に動いているサイン
睡眠就寝時刻が前より早い日が週に何日かある。朝、声をかける回数が減っている
家の空気勉強をめぐる言い争いの回数が減っている。夕食の席に出てくる
振り返りの言葉テストのあとに「次は」「今回は」で始まる一言が本人から出る

3つ目が出てきたら、結果の受け止めが本人のものになり始めています。点数が下がっていても、ここが動いているなら順番は間違っていません。

それでも動き出さないときに見直す前提

ここまで挙げてきたのは、領域を分け、種類を見分け、評価から順に外していくという、どの家庭にも当てはめやすい進め方です。この順番どおりに進めるだけでも、家の中の衝突はたいてい先に減っていきます。

ただ、同じように進めても手応えが出にくい家庭があります。やり方が間違っているからではなく、この整理には入っていない条件が2つ残っているためです。

1つ目は気質です。生まれ持った受け取り方の傾向によって、「手を引かれること」の意味が変わります。感情を表に出さず、自分で決めたことしか動かさない子がいます。この子は、外していく手ごたえが親の側からはしばらく見えません。返事も反応も薄いままですが、聞いていないわけではなく、自分の中で結論が出るまで外に出さないだけです。ここで「やはり言わないと駄目だ」と戻すと、いちばん惜しい引き返し方になります。一方で、相手との関係のほうが先に立ち、気持ちを受け止めてもらえてから動く子もいます。この子に「あとは任せた」とだけ伝えると、関心が引き上げられたと受け取ることがあります。手を引く段では、食事や送迎のような勉強と関係のない場面を減らさないほうが届きます。

2つ目はタイミングです。同じ子でも、外へ向かって動きやすい時期と、内側に力を溜めている時期があります。溜めている時期にいる子は、条件がそろっても、動き出すための手持ちがまだありません。この時期に手応えを測るなら、学習時間ではなく、夜のぶつかり合いが何回減ったかのほうが当てになります。

この記事のポイント

放っておいてよいのは勉強の中身、手を離さないのは学習のつまずき・睡眠と体調・学校とのつながり。手を引く順番は、代わりの仕組みが要らない評価から始めて、点検、段取りへと進めます。そのうえで、同じ順番の効き方は気質と時期によって変わります。

つまり、線引きと順番を整えたあとに残るのは、目の前の子をどう見立てるかという問題です。行動が止まる仕組みと、領域ごとの距離の取り方、気質に合わせた環境の整え方は、勉強・スマホなどの行動課題のページで体系的にまとめています。

よくある質問

中学1年生と中学3年生で、放っておいてよい範囲は変わりますか

引く場所は同じで、渡す速度が変わります。中学1年生のうちは、評価と点検を先に外しながら、日程や締切の共有を厚めに残すのが現実的です。中学3年生になると、受験にともなう事務が一気に増えます。ここで親が引き取るのは、期限の管理と書類まわりの作業までです。どの学校を受けるか、どの教科に時間を割くかは段取りの指定に当たるので、本人の側に残します。事務を親が引き取るほど、本人が考える対象が勉強のほうに寄っていきます。

塾に入れたら、親は勉強から手を引けますか

外部の受け皿を用意することと、家庭が判断をやめることは別です。塾は「分からなくて止まっている」状態に対する有効な道具ですが、始める入口で止まっている子や、時間の余裕が残っていない子に同じ道具を当てると、帰宅時刻が遅くなって睡眠が削られ、元の状態が強まることがあります。契約する前に、この記事の3種類のどれに近いかを見ておくと、道具の選び方が変わります。通わせたあとも、成果の点検を家庭で肩代わりしないほうが、塾との関係は長持ちします。

手を引いたあと、成績が下がったら戻すべきですか

全部を戻さず、1段だけ戻してください。外した順番の逆をたどり、いちばん最後に外したものから戻します。判断の目安は点数そのものではなく、どこができなかったかを本人が言葉にできるかどうかです。説明が出てくるなら、修正する役はすでに本人に移っています。説明が出てこないときは、段取りの指定を戻すより先に、学習のつまずきがないかを見直すほうが早道です。

勉強しないことに加えて、朝起きられない日が続いています

その状態は、勉強への意欲とは別の枠で考えてください。起床の困難が数週間続いている、日中の眠気が強い、食欲や表情が変わってきたといった様子があるときは、家庭内の線引きの話として抱えないほうが安全です。担任の先生、スクールカウンセラー、自治体の教育相談窓口に早めに共有し、体調面が気になるときは医療機関にもご相談ください。文部科学省の通知でも、「保護者が気軽に相談できる体制を整えることが重要であること」として、保護者の側から相談することが想定されています。