夜の9時すぎ、中学1年生がリビングに来て「明日、技術の教科書いる?」と聞いてきます。時間割表は見ていません。翌朝7時40分、玄関で「体操着どこ」。洗濯かごから出して渡し、送り出した30分後、通勤の途中でメッセージが届きます。「数学のワーク、机に置いてきた。持ってきて」。

忘れ物を「覚えていられるかどうか」の問題として扱うと、家の中に打てる手が残りません。家で動かせるのは、持ち物が通る道筋のほうです。かばんを下ろす場所を、帰宅して最初に通る場所に移す。準備の時刻を、前の晩から帰宅直後に繰り上げる。そして、学校へは届けない。家でできることは、ほぼこの3つです。

3つ目がいちばん効いて、いちばん手放しにくいところです。届けるかどうかを毎朝その場で決めているあいだ、忘れ物は本人の予定ではなく、親の予定を崩す出来事であり続けます。

忘れ物が多い中学生に、家でできることは3つしかない

動かすのは、置き場所・時刻・線引きの3つです。順番もこのとおりで、置き場所を変えないまま声かけを増やしても、持ち物の通り道は変わりません。

置き場所は、帰宅して最初に通る場所から選びます。玄関の脇、廊下、ダイニングの椅子のどれでもかまいません。部屋の奥に置き場所があると、かばんは部屋に入った時点で視界から外れ、翌朝まで開かれないことがあります。選ぶ基準は「片づいて見えるかどうか」ではなく「本人が通るかどうか」です。

時刻は、帰宅直後に繰り上げます。夜の準備は、疲れている時間に細かい作業を重ねることになり、朝の準備は、時間切れになった分がそのまま忘れ物になります。かばんを下ろした流れのまま、その場で翌日のものを入れ替えるほうが、工程が1つ減ります。

線引きは、忘れ物が起きていない日のうちに決めておきます。中身はこのあとの見出しで具体的に出します。

最初の1週間でやること

  1. かばんを下ろす場所を1か所だけ決める。帰宅して最初に通る場所から選び、親が片づけたい場所からは選ばない
  2. 時間割表のコピーを、その置き場所から目を上げれば見える高さに貼る
  3. 「学校には届けない」ことを、忘れ物が起きていない日に一度だけ伝える。理由は付けず、決めたことだけを言う
  4. この1週間は、持ち物について親から聞かない。聞くと、確認の役がまた親に戻る

中学生になって忘れ物が増えるのは、持ち物が教科ごとに分かれるから

本人の性格が変わったわけではなく、持ち物の種類と入れ替えの回数が増えたためです。小学校は担任と教室がほぼ固定で、教科書も机の中に置いたままにできました。

中学校の教育課程は、学校教育法施行規則の別表第二で、国語・社会・数学・理科・音楽・美術・保健体育・技術家庭・外国語の9教科に分かれています。教科ごとに担当の先生が替わり、曜日によって必要なものが違い、そこへ副教材、提出物、部活動の用具、委員会の持ち物が重なります。管理する対象が増えれば、抜ける確率も上がります。

そして、持ち物の量は家庭だけで抱える話ではありません。文部科学省は2018年9月6日の事務連絡「児童生徒の携行品に係る配慮について」で、「授業で用いる教科書やその他教材、学用品や体育用品等が過重になることで、身体の健やかな発達に影響が生じかねないこと等の懸念や保護者等からの配慮を求める声が寄せられている」として、各学校の工夫例を別紙にまとめています。

別紙には、「宿題で使用する教材等を明示することにより、家庭学習で使用する予定のない教材等について、児童生徒の机の中などに置いて帰ることを認めている」「教材等について、置いて帰ってもよいものについては、年度当初にリストを配布して児童生徒に周知している」「部活動の用具のうち、個人が所有するものについて、鍵のかかる部室やロッカーであれば、置いて帰ることを認めている」といった例が並びます。

つまり、何を持ち帰らせ、何を学校に置くかには、学校の側に判断の幅があります。家の仕組みを作り直す前に、担任の先生に次の3つを聞いておくと、動かす対象そのものが減ります。置いて帰ってよい教材の一覧があるか。部活動の用具をロッカーに置けるか。同じ日に用具が重なるときに、数日に分けて持ってくる形にできるか。

持ち物が家の中で止まる3か所。どこで抜けたかで手を入れる場所が変わる

忘れ物は、だいたい次の3か所のどれかで起きています。どこで抜けたかを分けないまま対策を足すと、関係のない場所に手が入ります。

学校で
机やロッカーから出す
家で
かばんを下ろす
翌日のものを
入れ替える
玄関で
持ち出す
持ち物が通る道筋。抜けた場所によって、手を入れる先が変わる
抜けた場所家で見えるサイン手を入れるところ
学校で、机やロッカーから出し忘れる夜になって「学校に置いてきた」と言う家では動かせない。置いて帰ってよいものの範囲を学校に確認する
帰宅後、かばんから出したまま戻さない床やテーブルにプリント・水筒・教材が残るかばんを下ろす場所を、帰宅時の通り道に移す
朝、用意したものを持たずに出る玄関にかばん以外の袋だけが残る持ち出すものを前の晩にかばんの上に重ねておく

多いのは真ん中です。かばんから出したものが元に戻らないまま一晩たち、翌朝は時間がないので、入っているものだけで登校する。この場合に効くのは声かけではなく、かばんの位置を数メートル動かすことです。

逆に、学校の机から出し忘れている回数が多いなら、家の置き場所をいくら整えても数は減りません。ここは学校の側の持ち物の運用に関わるので、前の見出しの3つの確認がそのまま効きます。

親の持ち分と本人の持ち分。学校へ届けるかどうかは、朝に決めない

届けるかどうかは、忘れ物が起きてから決めるものではなく、起きていない日に決めておくものです。その場で決める形にしているかぎり、朝の連絡は毎回、親の判断を仰ぐ場面になります。

場面親の持ち分本人の持ち分
置き場所と動線家の中の配置を変えるどこに置くかを選ぶ
翌日の時間割と持ち物の確認口を出さない毎日の確認
忘れたものへの対応届けないと先に決めておく先生に自分から伝え、借りるか見せてもらう
学校に置ける持ち物の範囲担任の先生に確認する—
体調と安全に関わるもの親が持つ(薬、暑い日の水分、帰りの交通費)—

いちばん下の行だけは、線を引いたまま親が持ちます。ここを本人に渡すと、回復できない結果が本人に残ります。それ以外の持ち物は、その日の授業で困るところまでで痛みが止まり、本人の手で立て直せる範囲にあります。

「届けない」を罰として使わない

届けないのは、困らせて反省させるためではありません。毎朝「今日は届けるかどうか」を判定する役から、親が降りるためです。届けた日と届けなかった日が混ざると、本人は持ち物ではなく親の機嫌を読むようになります。決めたことを一度伝え、忘れた日には何も足さない。この形が、いちばん早く本人の側に移ります。

小学生の高学年のうちに変えておけること

中学で崩れにくくするなら、持ち物の確認を親から本人へ移す時期を、小学校の高学年に置いておくほうが負担が軽くなります。小学校のうちは持ち物の種類が少なく、親が見れば回ってしまうため、移す機会がないまま中学に入りやすいからです。

高学年で変えられるのは3つです。連絡帳と時間割を親が読むのをやめ、本人が書いたものを本人が見る形にすること。翌日の持ち物を声に出して確かめる役を本人に移すこと。そして、置き場所を本人に選んでもらうことです。親が選んだ置き場所は、片づけの都合で決まっていることが多く、本人の通り道と一致しません。

忘れ物と同じ構造は、宿題の出し忘れにも表れます。本人に返す手順と、返さずに持っておく範囲の分け方は、小学生が宿題をやらないときの線の引き直しにまとめています。

忘れ物のほかにも気になることがあるときの相談先

忘れ物の多さだけで、家庭が何かを判断する必要はありません。気になる様子がほかにも続いているなら、家庭で原因を当てるより、学校に伝えるほうが先に進みます。

文部科学省が2022年12月に公表した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」では、小学校・中学校の通常の学級で「学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒の割合は8.8%でした。同じ資料には、「本調査は、学級担任等による回答に基づくもので、発達障害の専門家チームによる判断や医師による診断によるものではない」「本調査の結果は、発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合を示すことに留意する必要がある」と注記されています。

同じ調査で、この児童生徒のうち校内委員会で現在特別な教育的支援が必要と判断されている割合は28.7%でした。学級で困難が見えていることと、校内で支援の対象として扱われていることのあいだには、まだ幅があります。家庭から様子を伝えることで動く部分がある、ということでもあります。

相談する順番

  1. 担任または学年の先生に、家で見えている様子を具体的に伝える(いつから、どの場面で、どのくらいの頻度か)
  2. 学校のスクールカウンセラーや特別支援教育コーディネーターにつないでもらう
  3. 自治体の教育相談窓口・教育支援センターに相談する
  4. 発達の特性が気になる場合は、各都道府県・指定都市の発達障害者支援センターに相談する
  5. 頭痛や眠りの変化、体調の不調が一緒に続いているときは、かかりつけの小児科や内科に先に相談する

発達障害者支援センターは、国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターの説明によれば、「発達障害児(者)とその家族、関係機関等から日常生活でのさまざまな相談(コミュニケーションや行動面で気になること、保育園や学校、職場で困っていること)などに応じます。また、必要に応じて、福祉制度やその利用方法、保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関への紹介も行います」とされています。診断を受けるかどうかを決める前の段階でも相談できる窓口です。

3つのうち、どれが効くかは子どもによって違う

ここまでの3つは、多くの家庭で試せる標準的な環境の整え方です。それでも、置き場所・時刻・線引きのどれが先に効くかは子どもによって違い、効かないほうを強めるほど手が止まります。見ているのは仕組みの出来ではなく、その子の持ち物がどこで抜けるかです。

好きなことに入ると、ほかのものが視界から消えてしまう子がいます。この子に「帰ったらすぐ準備」と言っても、帰宅直後こそ、いちばん入り込みやすい時間になっていることがあります。この子に効くのは時刻ではなく通り道です。かばん置き場を部屋の手前の廊下まで出し、準備も立ったまま終わる量にしておく。声をかける代わりに、持ち物のほうが本人の進路上に来るようにします。

準備に時間がかかる子では、詰まっている段が1つ手前にあります。一つずつ確かめながら入れるので、夜に始めると終わりません。この子には動線より時刻が効きます。帰宅直後、まだ外の時間の延長にいるうちに始めると、同じ作業が短く終わります。途中で急かすと最初から数え直すので、終わる時刻は決めないでおきます。

注意の向き先そのものにも、時期による波があります。持ち物や予定や提出物といった自分の外側にあるものへ注意を配れる時期と、注意が内側に向いていて、外のものが視界から外れやすい時期があります。後者に当たっているときは、同じ置き場所でも抜けます。抜けた回数が増えた月を、本人が雑になった証拠として記憶しないでおくと、せっかく効いていた仕組みを作り直さずに済みます。

親が見ているもの

見るのは忘れ物の件数ではありません。抜けたのが「準備の前」なのか「持ち出しの瞬間」なのか、そして今が外側に注意を配れる時期かどうかです。ここが分かると、手を入れる場所は1か所で足ります。

勉強やスマホも含めた、親の持ち分と本人の持ち分の分け方そのものは、勉強・スマホなどの行動課題で扱っています。

よくある質問

忘れ物を学校まで届けるべきですか

体調と安全に関わるもの以外は、届けない形にそろえるほうが親子とも楽になります。薬、暑い日の水分、帰りの交通費などは別に扱ってください。それ以外を毎回その場で判断していると、本人の側には「頼めば届く」という読みが残り、親の側には毎朝の判定が残ります。学校には、貸し出しや見せてもらう形など、忘れ物に対する手だてがあります。届ける必要が出た場合に備えて、職員室に預けるのかなど、学校の決まりだけは先に確認しておくと迷いません。

忘れ物が多い子は頭がいいって本当ですか

そう言い切れる根拠はなく、能力の高さの印として扱わないほうがよい話です。1つのことに深く入ると周りが見えなくなる傾向が、集中力の高さと重なって見えることはあります。ただ、本人は困っています。能力の話に置き換えてしまうと、置き場所や時刻を変えるという、実際に効く話が止まります。

中学生で忘れ物が多いのは病気ですか

忘れ物の多さだけで、病気や障害を判断することはできません。前述の文部科学省の調査にも、学級担任等の回答に基づくもので医師による診断ではない、という注記が付いています。家庭で名前を当てはめるのではなく、担任の先生、スクールカウンセラー、自治体の教育相談窓口、発達障害者支援センターのどこかに、見えている様子をそのまま伝えてください。頭痛や眠りの変化など体の様子も一緒に変わっているときは、医療機関への相談を先にしてください。

何度言っても直りません。叱るのをやめてよいのでしょうか

やめて差し支えありません。声をかけた回数と忘れ物の数は、ほとんど連動しないためです。叱って変わるのは持ち物ではなく報告の量で、言われたくない出来事は伝えられなくなります。その結果、親の手元に入る情報が減ります。言葉を減らしたぶんを、かばんの位置と準備の時刻に回すほうが、数は早く動きます。