契約書が機能しなくなるのは、条項が甘かったからでも、本人の意志が弱いからでもありません。ひな形の条項の数が、その家で毎日判定できる数を超えていたからです。親が紙に書き込むのは3行まで。1行目は次に見直す日で、残りの欄は空けたまま本人に渡します。何をどの順で書くかを、ここから具体的に出します。
中学生のスマホの契約書は、ひな形を写さずに紙1枚で作る
用意するのはA4の紙1枚です。縦に1本線を引いて左右に分け、左を親が書く欄、右を本人が書く欄にします。親が左に書き込むのは3行までで、それ以外は右側に残します。
紙を作るときにやること
- 紙を縦に半分で分け、左を親の欄、右を本人の欄にする
- 左の1行目に、次に見直す日を「2026年12月28日」のように日付で書く
- 左に、親が外せない条件を2行だけ足す(眠る時間帯に関する1行と、お金・知らない相手に関する1行)
- 右は空けたまま本人に渡し、使う時間帯と場所を本人の字で書いてもらう
- 両方そろったら、同じ紙に2人で日付と名前を書く。コピーは取らず、1枚だけを家の共有の場所に置く
ひな形を印刷して署名する形との違いは、紙の持ち主がどちら側にあるかです。こども家庭庁・警察庁・消費者庁・総務省・法務省・文部科学省・経済産業省が2024年1月に発行した保護者向けのリーフレットも、「大切なのは、こどもの成長にあわせたルールづくり」として「我が家のルールはオーダーメイドで」と記しています。配布されているひな形は別の家の生活時間を前提に書かれているので、下書き以上の役には立ちません。ルールの中身を本人とどう決めるかは中学生のスマホのルールの作り方で、上限時間の出し方は中学生のスマホの使用時間の決め方で扱っています。
紙があるかどうかという認識自体も、中学で開き始めます。こども家庭庁の令和7年度の調査では、「ルールを決めている」と答えたのは小学生本人が83.8%、その保護者が88.4%でしたが、中学生では本人が74.5%、保護者が81.9%と差が開きます。報告書は「学校種が上がるにつれて、『ルールを決めていない』との回答が増え、青少年と青少年の保護者の『ルールの有無に関する認識のギャップ』も拡大傾向」と記しています。この差を分けているのは、取り決めが誰の手で書かれたかです。口で渡しただけの行は親の手元にしか形が残りませんが、右の欄に本人の筆跡があれば、何を引き受けたのかを本人の側からも読み返せます。紙の半分を空けたまま渡すのは、このためです。
契約書・誓約書に書く5つの欄と、紙では止まらないこと
欄は、時間帯・場所・お金・人とのやり取り・見直す日の5つで足ります。ただし、このうち紙で守れるのは「人が見て判定できること」だけで、残りは機器の設定の仕事です。
| 欄 | 紙に書くこと(見れば判定できる形) | 紙では止まらないので設定で扱うこと |
|---|---|---|
| 時間帯 | 夜10時に充電器へ置く | 就寝時間帯の通知の停止、使用時間の設定 |
| 場所 | 歩きながら・自転車に乗りながら使わない | (設定では止まらない。ここは約束のまま残す) |
| お金 | 買いたいものが出たら、買う前に見せる | 購入のたびに承認が要る設定、通信会社の決済の上限 |
| 人とのやり取り | 知らない相手から連絡が来たら見せる | フィルタリング、年齢に合わない内容の制限 |
| 見直す日 | 次に見直す日を日付で書く | (設定はない。紙にしかできない仕事) |
課金は、紙に書いても紙では止まりません。国民生活センターが2024年3月に公表した資料では、契約当事者が小学生・中学生・高校生のオンラインゲームに関する2022年度の相談件数は4,024件で、契約購入金額の平均は約33万円でした。同じ資料は保護者への対策として「課金を承認制に設定できます」「キャリア決済は必要に応じ上限額を低く」と挙げています。紙の行を増やすより、承認の設定を1つ入れるほうが早く効きます。
設定の側はまだ余白があります。こども家庭庁の同じ調査では、中学生の保護者のうち「契約時または、契約変更時にフィルタリングに加入した」は62.3%、「機器の設定で時間管理している」は30.1%、「課金管理等のその他の目的で管理を行っている」は37.9%でした。
設定で済むことを条項にしない
「課金しない」「あやしいサイトを見ない」といった行は、紙に書いても判定の回数を増やすだけで、実際に止めているのは設定のほうです。紙に書く行が増えれば、守られなかった行も同じだけ増えます。止まるものは設定に任せ、紙には人が見て判定できることだけを残してください。
厳しすぎる契約書が守られないのは、条項の数だけ判定が起きるから
条項を20個書いた紙は、毎日20回の「守れたか・守れなかったか」を家の中に発生させます。親の目にとまるのはたいてい守れなかった行のほうなので、条項が多い紙ほど、話題になるのは失点だけになります。本人の側に残るのは、自分の生活が毎晩採点されているという感覚です。
罰則の条項も同じ働きをします。「違反したら3日没収」のような行を入れると、紙は約束の記録ではなく罰の表に変わります。表になった紙は、守るために読むものではなく、取られないために読むものになります。
条項を減らすのは、甘くすることではありません。親が見る行が3つなら、その3つは毎回同じ基準で見られます。見る行が20あるうちは、どの行を取り上げるかがその日の親の状態で決まってしまい、基準そのものが伝わりません。
スマホの契約書の作り方。書く順番は「見直す日」から
書く順番は、見直す日 → 本人の欄 → 親の条件 → 署名です。禁止事項から書き始めると、紙は禁止の一覧になり、本人の欄は最後に残った余白になります。
見直す日は、生活が変わる時期に合わせて置きます。前出のリーフレットは「ルールをつくる・見直すタイミングは?」として「スマホを買う時、入園・進学・進級などのライフイベント時に、また夏休みや冬休みに親子で見直しを!」と挙げています。学年の変わり目と長い休みの前後は、部活の終わる時刻も帰宅時刻も変わるので、紙のほうが先に古くなります。
見直す日に何をするかも、書く前に決めておきます。足す日ではなく、消す日にしてください。使わなくなった行を本人に選んで消してもらい、空いた場所はそのまま空けておく。足すのは、消したあとに本人の側から出てきたときだけにします。この順にすると、見直すこと自体が本人にとって損にならないので、次の見直しも机に着いてもらえます。
守られなかったときの扱いを、書く前に1行だけ決めておく
紙に書くのは罰ではなく、止まる場所です。「同じ行が2週続けて守れなかったら、その行を書き直す」の1行で足ります。
破ったその場で扱いを考えると、毎回ちがう裁定になります。そうなると本人の側に残るのは行の中身ではなく、その日の親の様子のほうです。先に1行を決めておけば、守れない日が続いても、話し合う場所は紙の上に戻ってきます。
安全やお金に関わることが実際に起きたときは、この運用とは切り離して扱ってください。身に覚えのない支払いが出た場合は、消費者ホットライン「188」や最寄りの消費生活センターに相談できます。知らない相手と会う約束や、個人を特定できる写真のやり取りが出てきたときは、紙の違反としてではなく、その場の対応として一緒に確認します。
取り上げをめぐって物が壊れる・手が出る、昼夜が逆転して学校に行けない、眠れない日や食べられない日が続くといった状態があるときは、スマホの約束の問題として扱わないでください。担任の先生やスクールカウンセラー、自治体の教育相談窓口に早めに相談し、心身の不調が続く場合は医療機関の受診も検討してください。
1枚目はどの家でも書ける。差が出るのは2枚目を書くとき
ここまでの作り方は、紙を家の中で機能させるための標準的な手順です。順番どおりに進めれば、1枚目はたいていの家で書けます。分かれるのは、見直す日が来て2枚目に向かうときです。
1枚目は右の欄をびっしり埋めて守っていたのに、2枚目で行を2つ足したとたん、紙ごと見なくなる子がいます。足した内容に反対しているわけではなく、自分で決められる幅が狭くなったこと自体で手が止まっています。この子の2枚目には、行を足さないでください。消した行のぶんは空けたままにして、空いた場所に何を書くかを本人に任せる。条項を絞るほど、紙は長く生きます。
逆に、書いてある行はきちんと守り続ける子もいます。この子の紙は1枚目のまま何年も生き延びてしまい、部活で帰宅が遅くなっても、古い時刻を守ろうとして眠る時間のほうを削ります。やがて守れなくなると、紙が古いのではなく自分のほうが足りない、という形で受け取ります。この子にとって、1行目の日付は制限ではなく出口です。見直す日が紙にあるかどうかで、持ちこたえ方が変わります。
もう1つ、同じ子の中でも入れ替わるものがあります。任される範囲が広がるほど動きやすくなる時期と、任されること自体が重く感じられる時期です。後者に当たっているときに空欄を増やすと、自由になったはずの欄が宿題のように見えます。2枚目で本人の筆が止まったときは、空欄の数が今の本人には多かった、という読み方ができます。紙の書き方を変えるのは後回しにして、空欄を1つに減らしたところから様子を見てください。
2枚目を書くときに見るところ
紙が続くかどうかを決めているのは、条項の精度ではありません。行を足したときと空けたときのどちらでその子が動くか、そして今が任される幅を広げられる時期かどうかです。この見立てが先にあると、書き直す回数そのものが減ります。
勉強・スマホなどの行動課題では、持ち物や生活時間、勉強といった別の場面でも、親が決めた枠が本人に引き受けられないまま終わる原因を扱っています。親の指示を減らしたときに家の中で何が起きるかは、「勉強しなさい」を言わない効果と、やめる前の線引きで整理しています。
よくある質問
中学生のスマホのルールは契約書をダウンロードしていいですか
ダウンロードしたものは下書きとして使い、そのまま署名しない形をおすすめします。配布されているひな形は条項が多く、別の家の生活時間を前提に書かれています。項目の抜けを確かめる道具として一度だけ目を通し、紙に写すのは自分の家で判定できる行だけにしてください。
スマホの誓約書は小学生でも同じ形でよいですか
小学生では条項をさらに減らし、見直す間隔を短くするほうが続きます。本人が書く欄は残したまま、親が書く行を2行ほどにし、見直す日を学期の区切りに置きます。前出のリーフレットも「ペアレンタルコントロールからセルフコントロールへ」として、発達の段階に合わせて設定と約束の比重を移していく形を示しています。
スマホの契約書を破ったらどうすればいいですか
罰を足す前に、その行が見れば判定できる書き方かどうかを先に見てください。本人に「どういう約束だったか」と聞いて、紙を見ずに言えないなら、その行はまだ決まっていません。同じ行が2週続けて守れないなら水準が生活と合っていないので、見直す日を前倒しして、その行だけ書き直します。











