平日の午後7時半。小学5年生がリビングのテーブルに漢字ドリルを広げたまま、消しゴムのかすを指で丸めています。「まだ1行目だよね」と声をかけると、「今やろうとしてた」。9時を回ってもページは埋まらず、結局こちらが読み上げて書かせ、丸をつけて終わらせる。明日もおそらく同じ時刻に、同じやり取りが始まります。

この往復が消耗するのは、宿題が「親子で終わらせる共同作業」になっているからです。結論から書きます。小学校の宿題には、学校が保護者に頼んでいる作業と、本人の仕事が最初から混ざって入っています。分けないまま全部を引き受けるので、終わらないことの責任まで親の側に残り続けます。

そして、分けたあとに訪れるのが「宿題を忘れたまま登校する日」です。宿題忘れは、小学校高学年のうちがいちばん小さな代償で経験できる失敗でもあります。工程の分け方と、返すときの手順から先に書きます。

宿題を工程に分けると、親の仕事は3つしか残らない

「宿題をやる」という一言は、実際には別々の作業の集まりです。分けてみると、親が持ち続ける必要があるものは意外に少なくなります。

宿題の工程誰の仕事かそう決める理由
何が出ているかを知れる状態にしておく親連絡帳や学年だよりは家に届く情報。渡しても、いつやるかの決定は本人に残る
いつ取りかかるか本人時刻を指定されるほど、自分で始める練習の回数が減る
問題を解く、書く、音読する本人肩代わりすると、提出物は完成しても中身は本人の手元に残らない
丸つけ、音読カードへのサイン親学校が保護者に依頼している作業。黙って降りると学校側の運用が崩れる
間違いの直し、やり残しの処理本人どこを直すかを決めるところまでが、宿題という課題の一部
提出する、忘れたときに自分で説明する本人出し忘れの結果は教室の中で起き、翌日には本人の手で取り返せる
就寝時刻の枠を保つ親眠りと体調だけは、削られた分を本人の努力で取り戻せない

親に残るのは、情報・頼まれた作業・就寝時刻の3つだけです。残りはすべて本人の列に入ります。

ここで見落とされやすいのが、4行目の存在です。中学生の宿題と違い、小学校の宿題には最初から保護者の役割が組み込まれています。丸つけ、音読カードのサイン、提出物の確認欄。学校から頼まれている以上、親が宿題に関わること自体は避けられません。問題は、この入口があるために、いつのまにか宿題全体の責任者の席まで引き受けてしまうことです。頼まれているのは「見たという事実を残すこと」であって、「仕上がりを保証すること」ではありません。

丸つけが点検に変わる瞬間

サインも丸つけも、頼まれた範囲で続けてかまいません。線を越えるのは、そこに「ここ間違ってる、やり直し」を足したときです。足した時点で、宿題の持ち主は本人から親へ移ります。間違いが目に入っても、印をつけて返すところで止める。そうすると、直す範囲を決める仕事が本人の側に残ります。

宿題忘れを本人に返す手順

工程を分けると、遅かれ早かれ、終わっていないまま朝が来ます。ここを親が埋めてしまうと、分けた意味がなくなります。

返す前に、代償の大きさを見ておきます。文部科学省が平成31年3月29日に出した学習評価と指導要録に関する通知は、「主体的に学習に取り組む態度」の評価について、『挙手の回数や毎時間ノートをとっているかなど,性格や行動面の傾向が一時的に表出された場面を捉える評価であるような誤解が払拭しきれていない』と指摘しています。そのうえで、評価するのは『知識及び技能を獲得したり,思考力,判断力,表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組の中で,自らの学習を調整しようとしているかどうかを含めて評価する』ものだとしています。記録に用いる評価の場面についても、『毎回の授業ではなく原則として単元や題材など内容や時間のまとまりごとに,それぞれの実現状況を把握できる段階で行うなど,その場面を精選することが重要』と述べています。

学校ごとの運用まで示した文書ではありません。それでも、1度の提出忘れがそのまま評価の記録になる前提ではない、という読み方はできます。中学校に上がると学年末の評定が進路の資料として扱われるようになり、同じ提出忘れでも本人が引き受けるものが重くなります。同じ失敗をいちばん小さな代償で経験できるのが、小学4年生から6年生のあいだです。

返しはじめの2週間でやること

  1. 連絡帳に1行だけ書いて担任に伝える(「家庭での宿題の確認を本人に任せる練習を始めます。出し忘れがあったときは本人に声をかけてください」)
  2. 「宿題やったの」と聞くのをやめる。連絡帳と学年だよりは、本人が自分で開ける場所に置いておく
  3. 丸つけとサインは頼まれたとおりに続ける。間違いの指摘は足さない
  4. 終わっていない日が来ても、朝に仕上げを手伝わない。学校へ連絡もしない
  5. 帰宅後に「どうだった」を一度だけ聞き、「次はどうする」で会話を終える

1つ目が、小学校ならではの手順です。家庭が黙って手を引くと、学校側からは「家庭が宿題に協力しなくなった」としか見えません。先に一行伝えておくだけで、担任は本人への声かけに切り替えられます。手を引く相手は子どもであって、学校ではありません。

親が宿題の
持ち主になっている
工程を分けて
本人の列を渡す
終わらないまま
登校する日が来る
その結果を
本人が教室で受け取る
宿題が
本人のものになる
宿題を本人に返す流れ。3段目を朝に埋めてしまうと、4段目が起きない

小学校の中学年から高学年にかけては、親の評価よりも同級生の中での自分の位置のほうが気になり始める子が増えます。ほめ方や決め方をどう切り替えるかは、10歳の壁で親が切り替える3つの関わりに整理してあります。

返してよい宿題と、返してはいけない宿題

「失敗させればよい」という話ではありません。返す対象は、はっきり限定します。

返してよい宿題返さず、持ち方を変える宿題
漢字ドリル、計算プリント、音読など毎日出る課題自由研究や工作のように、材料の手配が家庭の段取りに乗っている課題
出し忘れても、その日のうちに本人が自分で説明できるもの班で1つを仕上げる課題のように、結果が他の子にも届くもの
解けるのに手がついていないもの解き方が分からずに止まっているもの
1日分の遅れで収まるもの就寝時刻を越えてまで続けないと終わらない量になっているもの

右の列は、本人に返しても学ぶ材料が増えない領域です。3行目はとくに注意が必要で、ここを放っておくと、見え方は「やらない子」のままで、分からない範囲だけが積み上がります。返すより先に担任へ相談し、どこでつまずいているかを学校と共有するほうが早道です。

4行目については、優先順位を先に決めておきます。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、こどもの推奨事項として『小学生は9~12時間、中学・高校生は8~10時間を参考に睡眠時間を確保する。』と示しています。同じガイドは『小学生以降は、早起き習慣を保ったうえで、前述の推奨睡眠時間から逆算して、夜寝る時間を決めることをお勧めします』とし、『十分な睡眠時間が確保できるように設定するよう親が援助することが望ましいでしょう』とも述べています。

逆算すると、朝6時半に起きる小学生の就寝時刻は、下限の9時間で見ても21時半です。宿題が終わるかどうかより、その時刻の枠を保つほうが親の仕事にあたります。終わっていなくても寝かせる。終わらなかったという事実は、翌日の教室で本人が扱います。

切り上げる時刻を先に決めておく

その場で判断すると、あと少しで終わりそうな日だけ延長してしまい、枠が枠として働きません。終了時刻を先に家の約束にしておくと、終わらなかった日に親が怒る必要もなくなります。切り上げは罰ではなく、時間の枠は動かないという情報です。

手を引けない夜に、親の側で起きていること

ここまでの手順を読んで、「理屈は分かるが、未提出のまま送り出すのは無理だ」と感じた方は多いと思います。その感覚は、見ないふりをしないほうが結果として長続きします。

未提出のまま行かせたくない理由を分けると、本人が困るからという部分と、翌日の連絡帳に先生から何か書かれるのが親として気まずい、という部分が混ざっています。後者は誰にでも起きる自然な反応です。ただ、気まずさを避けるために夜の仕上げを引き受けると、本人の手元には「困らずに済んだ」という記録だけが残ります。

小学校学習指導要領(平成29年3月告示)は、指導上の配慮事項として『児童が自ら学習課題や学習活動を選択する機会を設けるなど,児童の興味・関心を生かした自主的,自発的な学習が促されるよう工夫すること。』と定めています。学校が選ぶ機会を用意しても、家庭の夜がすべて親の判断で埋まっていれば、選ぶ練習の場は半分になります。

「もう手伝わないからね」と宣言しない

宣言は、予告つきの罰として届きます。受け取った側は、失敗から学ぶ前に、失敗を見せない方法のほうを先に覚えます。伝える相手は担任だけで足ります。家庭では告知せず、聞かれてから答えるくらいの距離がちょうどよく働きます。

工程を分けても、夜が変わらないとき

ここまでの分け方は、小学校高学年の多くの家庭でそのまま使えます。親の列を3つに減らし、担任に一行伝え、就寝時刻で切り上げる。この3つだけで、夜の言い争いが先に減る家庭は少なくありません。

一方で、同じように進めても手応えが出にくい場合があります。手順の精度の問題ではなく、工程表には書き込めない条件が2つあるためです。

ひとつは、その子の気質です。宿題が自分の手に戻ってきたことを本人がどう受け取るかは、一様ではありません。できない姿を人に見られたくない子は、間違いを指摘されるくらいなら、白紙のまま出す、持って行かない、やったと答える、という方向に動くことがあります。この子に「忘れたら先生に言われるよ」と添えると、返すどころか隠す練習になります。間違い直しを人目に触れない形にしてから返すほうが届きます。筋道が通っていると感じられたときにいちばん長く続く子でもあるので、工程を分けた理由を一度だけ言葉にしておく価値があります。

もう一方に、自分のペースを乱されると固まる子がいます。言い返しはしないものの、急かされるほど手が止まり、「今やろうと思ってた」のまま時間が過ぎていきます。怠けているのではなく、動かないことで自分のペースを守っているのです。この子には、促す回数そのものを減らすほうが通ります。始める時刻を本人に一度だけ決めてもらい、その時刻が来るまでは宿題の話をしない。親が黙っている時間が、この子にとっては取りかかるための余白になります。

残るひとつは、今がその子にとってどんな時期か、です。同じ子どもでも、手持ちのエネルギーを外へ使う時期と、内側に積み直している時期が入れ替わります。積み直している最中の子は、工程を渡されても、動き出すための手持ちがまだありません。この時期の目盛りは、終わったページ数ではなく、本人が自分から連絡帳を開く回数のほうです。

この記事のポイント

宿題が毎晩の戦いになるのは、学校から頼まれた作業と本人の仕事が一緒くたになっているからです。親に残すのは情報・頼まれた作業・就寝時刻の3つ。残りを返し、代償が小さい高学年のうちに失敗を経験してもらう。ただし、どの速さで返せるかは、目の前の子の気質と、その子が今どんな時期にいるかで決まります。

この分け方は宿題だけのものではなく、持ち物の準備やスマホの使い方にもそのまま当てはまります。なぜ同じ手順が家庭によって別の結果になるのかは、勉強・スマホなどの行動課題に整理してあります。宿題の対処法を順番に試して効かなかった経験があるなら、手順を増やす前にそちらを読んでみてください。

よくある質問

宿題を忘れて先生に叱られるのがかわいそうです。それでも返すべきですか

叱られる場面を避けたい気持ちは自然なものです。そのうえで、避け続けたときに何が起きるかも見ておきます。親が朝に仕上げている間、本人は「出し忘れると自分が困る」という経験を一度もしないまま学年が上がります。経験の機会が後ろにずれるほど、最初に困る場面は中学校以降になり、そのとき本人が引き受けるものは重くなります。先に担任へ一行伝えておけば、叱責ではなく声かけとして扱われる可能性も上がります。

丸つけを家庭でするよう言われています。これもやめてよいですか

学校から依頼されている作業は続けてください。やめるのは、丸つけに付け足していた指摘のほうです。間違いに印をつけて返すところで止め、どこを直すか、いつ直すかは本人に渡します。負担が大きすぎると感じるときは、黙ってやめるのではなく、面談や連絡帳で担任に相談するのが先です。

返したら、本当に1行も書かなくなりました。いつまで待てばよいですか

目安は、出せなかった日の帰宅後の様子です。その話題を自分から避けようとする、翌日の持ち物だけは自分で確かめている。そうした小さな動きが出ているなら、次の通知表が出るころまでは、情報を渡すことと就寝時刻の枠だけを保って様子を見てください。何も変わらないまま、特定の教科だけ手がつかない状態が続くときは、意欲ではなく学習のつまずきの側を疑ってください。中学生の学習にそのまま持ち越したときの線引きは、中学生が勉強しないときの放っておいてよい範囲にまとめています。

宿題をめぐるやり取りのあと、学校に行きたがらない日が出てきました

その様子は、宿題の話から切り離して扱ってください。朝になると腹痛や頭痛を訴える、夜に眠れていない、食事の量が減っている、玄関の前で動けなくなる。こうした様子が重なっているときは、宿題や生活習慣の問題として家庭だけで抱えないでください。学校のスクールカウンセラーは、保護者だけで予約して使えます。担任の先生や、お住まいの市区町村の教育相談窓口も同じです。文部科学省が案内する「24時間子供SOSダイヤル」(0120-0-78310)は通話無料で、保護者からの相談も受け付けています。体の不調が続くときは、小児科など医療機関にもご相談ください。