上限の数字は、平均から決めるのではなく、朝起きる時刻からの引き算で出します。起きる時刻と必要な睡眠時間はどちらも動かせないので、そこから眠る時刻が決まり、残った時間の中でスマホに回せる分が自動的に出てきます。「何時間が妥当か」を話し合うのをやめて、計算して出す形に変える。それだけで、数字は交渉の対象ではなくなります。朝の起きる時刻を固定する考え方は、中学生の昼夜逆転の治し方で詳しく書いています。
検索して出てくる平均の数字は、2つの系統に分かれています。こども家庭庁の令和7年度の調査では、中学生のインターネットの平均利用時間は平日1日あたり約5時間24分。ただしこれは、7種類の機器と、勉強も動画も友人との連絡も合わせた合計です。文部科学省・国立教育政策研究所の調査で「携帯電話やスマートフォン」だけに絞ると、中学校3年生の平日の平均は1時間56分になります。同じ「中学生のスマホ時間」という言葉で、まったく違う数字が流通しています。
中学生のスマホの上限は、起きる時刻から逆算して出す
上限を出す順番は、朝起きる時刻 → 必要な睡眠時間 → 眠る時刻 → 残り時間の割り振り、の4段です。スマホの長さを最初に決めようとすると、根拠がどこにもないので、毎回ふりだしの言い合いに戻ります。ルール全体の作り方は中学生のスマホのルールの作り方に、上限を紙に書く手順はスマホの契約書を紙1枚で作る手順にまとめています。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、こどもについて「小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間を参考に睡眠時間を確保する」としたうえで、「小学生以降は、早起き習慣を保ったうえで、前述の推奨睡眠時間から逆算して、夜寝る時間を決めることをお勧めします」と書いています。順番を睡眠から始めるのは、国の資料の側でも同じです。
上限を出す4段
- 朝起きる時刻を書き出す。学校の始業時刻と通学時間で決まるので、ここは動かさない
- そこから8〜10時間さかのぼった時刻を、眠る時刻として置く
- 帰宅から眠る時刻までの残り時間を書き出し、食事・入浴・宿題・部活のあとの休息を引く
- 引き算で残った分が、その家でスマホに回せる上限。1時間半の家も、3時間の家もある
4段目が要点です。出てくる数字は家ごとに違い、しかも親が選んだ数字ではありません。部活の終わりが遅い家は短くなり、学校が近い家は長くなります。上限は、守らせる目標ではなく、引き算の結果として残る余りです。本人と並んで計算すると、数字そのものには文句が出にくくなります。
| 上限を出すときの材料 | 動かせるか | 誰の持ち分か |
|---|---|---|
| 朝起きる時刻 | ほぼ動かせない | 学校の時間割で決まる |
| 必要な睡眠時間 | 動かせない | 体の側で決まる |
| 眠る時刻 | 上の2つから自動的に決まる | 計算の結果 |
| 食事・入浴・宿題にかかる時間 | 多少は動く | 家の段取り(親の持ち分) |
| 残りをスマホにどれだけ回すか | 動かせる | 本人の持ち分 |
交渉できるのは、この表の下2行だけです。上の3行まで話し合いの机に載せると、「別に眠らなくても平気だ」という話から始まってしまい、そこで止まります。先に動かせないものを確定させてから机に着くと、話す範囲は最後の2行に絞られます。
「2時間以下」をそのまま上限にすると行き詰まる
同じ睡眠ガイドは「小・中・高校生は1日当たり60分以上からだを動かし、スクリーンタイムは2時間以下にすることが推奨されています」とも紹介しています。ただしスクリーンタイムは、テレビも動画も、学校から配布された端末も含めた画面全体の時間です。中学生は授業でも端末を使うので、この2時間をそのままスマホの上限として渡すと、初日から届かない数字になります。引き算で出した数字のほうが、守れたかどうかを判定できます。
中学生のスマホ・ネットの平均使用時間(平日1日あたり)
公的な調査の数字は2つあり、どちらも正しく、数えている範囲が違います。ネット全体なら中学生は平日1日あたり約5時間24分、携帯電話・スマートフォンだけなら中学校3年生で1時間56分です。
こども家庭庁の令和7年度青少年のインターネット利用環境実態調査(速報)では、インターネットを利用していると答えた青少年の平均利用時間は約5時間27分で、前年度と比べて約25分増えています。学校種別では、小学生(10歳以上)が約3時間54分、中学生が約5時間24分、高校生が約6時間44分でした。この調査が数えているのは、スマートフォン、契約していないスマートフォン、携帯電話、自宅用のパソコンやタブレット、学校から配布された端末、ゲーム機、テレビの7機器の合計です。小学生のゲームの時間については、小学生のゲームの時間の決め方で扱っています。
一方、文部科学省・国立教育政策研究所が令和6年度の全国学力・学習状況調査にあわせて行った保護者への調査では、中学校3年生が学校のある日に携帯電話やスマートフォンを使う時間は、平均1時間56分でした。令和3年度は1時間36分だったので、3年で20分増えたことになります。
| 何を数えた平均か | 中学生の平日1日あたり | 出典 |
|---|---|---|
| 7機器すべてのインターネット利用時間 | 約5時間24分 | こども家庭庁(令和7年度) |
| 携帯電話・スマートフォンの使用時間 | 1時間56分 | 文部科学省・国立教育政策研究所(令和6年度・中学校3年生) |
家で上限の話をするときは、どちらの数え方をしているかを先にそろえてください。親が1時間56分のつもりで話し、本人が約5時間24分のほうを思い浮かべていると、同じ「2時間」が別の意味になります。
平均の中身も見ておきます。同じこども家庭庁の調査で、青少年全体の目的ごとの平均利用時間は、趣味・娯楽が約3時間1分、勉強・学習・知育が約1時間6分、保護者や友人等とのコミュニケーションが58.1分でした。合計の数字には、宿題のために開いている時間も入っています。
平均より、分布のどこにいるかを見る
平均だけでは「うちは多いのか少ないのか」しか分かりません。同じ調査の内訳を見ると、中学生の48.0%が5時間以上、78.1%が3時間以上です。
いちばん多いのは7時間以上の層で24.6%。1時間未満から7時間以上まで広く散らばっていて、ここが標準だと言える山はありません。平均より上か下かは、上限を決める材料になりません。平均の近くにいても眠れていない子がいて、平均より長くても朝きちんと起きる子がいます。
1日何時間までにするかを決める前に見る3つのこと
数字を決める前に見るのは、睡眠が足りているか、翌日の午前がどうか、本人が自分の使用時間を知っているか、の3つです。どれも1週間あれば分かります。
1. 眠れているか
中学・高校生の目安は8〜10時間です。ここで気をつけたいのは、夜型になる原因がスマホだけではないことです。睡眠ガイドは「思春期が始まる頃から睡眠・覚醒リズムが後退し、睡眠の導入に関わるホルモン(メラトニン)の分泌開始時刻が遅れることで、夜寝る時刻が遅くなり、朝起きるのが難しくなる傾向がみられます」と書いています。体の側の変化が先にあり、そこへ部活や勉強、友人とのつきあい、デジタル機器の使用が重なります。スマホを取り上げても眠くならない夜があるのは、この順番のためです。
だから、眠る時刻が後ろにずれているときに最初に動かすのは、スマホの長さではなく、眠る時刻そのものです。長さは、眠る時刻が固定されたあとで自動的に決まります。
2. 翌日の午前の様子
見るのは当日の使用時間ではなく、翌朝です。起こす回数、朝食に手をつけるかどうか、1時間目の記憶が残っているかどうか。こども家庭庁の調査では、中学生の24.5%が「インターネットにのめりこんで勉強に集中できなかったり、睡眠不足になったりしたことがある」と答えています。本人の側にも自覚のある領域なので、朝の様子は責める材料ではなく、一緒に見る材料になります。
3. 本人が自分の使用時間を知っているか
ここがいちばん抜けやすいところです。親はスクリーンタイムの画面を見て数字を知っているのに、本人は一度も見たことがない、という家庭が珍しくありません。この状態で上限だけを渡すと、本人にとっては根拠のない数字を押しつけられた形になります。先に本人が自分の週の記録を開く。数字を最初に見る人を本人にするだけで、上限の話が点検ではなく相談になります。
3つを見る順番
睡眠 → 翌日の午前 → 本人の自覚。この順で見ると、手を入れる場所が決まります。眠れているのに午前がだめなら、原因はスマホの外にあります。眠れていないなら、長さを削る前に眠る時刻のほうを先に固定します。
減らすときの順番。いきなり半分にしない
減らすときは、今の実績から1段15〜30分ずつ、2週間おきに下ろします。いきなり半分にすると、守れない期間が長く続き、上限そのものが壁の飾りになります。
最初の2週間で何も減らさないのが要点です。記録だけを取る期間を置くと、本人の側に「今どれくらい使っているか」の実感が先にできます。ここを飛ばして数字から入ると、減らす前の状態が誰にも分からないまま削ることになり、どれだけ減ったのかを確かめようがありません。
2段目を「眠る時刻の前の30分」から始めるのにも理由があります。1日の総量を均等に削るより、睡眠に直接ぶつかっている部分から空けるほうが、効果が翌朝に出ます。睡眠ガイドは「デジタル機器は寝室には持ち込まず、電源を切って、別の部屋に置いておきましょう」とも書いています。長さを削る前に、置き場所を寝室の外にするだけで済むことがあります。
下ろす幅は、1段につき15〜30分までにしてください。幅が大きいほど、取り戻すための交渉が起きやすくなります。
守れなかった週の扱いを、下ろす前に決めておく
届かない週があったときにその場で罰を考えると、毎回ちがう裁定になります。先に決めておくのは罰ではなく、止まる場所です。2週続けて届かなかったら、その段で止める。次に下ろすかどうかは本人に決めてもらう。下ろす速さを本人の持ち分にしておくと、下ろすこと自体への抵抗は小さくなります。
時間制限の機能は、解除の手続きを先に決めてから入れる
スクリーンタイムやファミリーリンクのような機能は、制限の長さより先に「解除を誰に、どう頼むか」を決めてから入れてください。無料の時間制限アプリを別に探す必要は、ほとんどの家庭でありません。iPhone にも Android にも、使用時間の記録と上限の設定は最初から入っています。追加のアプリを重ねると、設定の場所が増えて、どこで何を止めているのかが親にも分からなくなります。
機能を入れる前に決める2つ
- 週の記録を最初に開くのは誰か。本人が自分で開き、そのあとで一緒に見る形にする
- 解除をどう頼むか。「頼めば外れる」のままだと、上限は毎日の交渉の入口になる。外してよい場面(調べものが必要なときなど)と、外した分を翌日どう扱うかを先に決めておく
パスコードを親が持つこと自体は問題ありません。問題になるのは、外す基準が日によって動くことです。基準が親の様子で変わると、本人は上限ではなく親の機嫌のほうを読むようになります。
こども家庭庁の調査では、中学生の保護者のうち、何らかの方法でこどものネット利用を管理していると答えたのは92.1%でした。一方で「機器の設定で時間管理している」は30.1%、「利用してもよい時間や場所を決めて使わせている」は49.4%です。口で決めている家庭に対して、機器の設定まで使っている家庭は少数にとどまっています。
記録を証拠として使わない
週の記録を「ほら、こんなに使っている」と差し出すと、その場で話は終わります。数字を証拠として見せられた側に残るのは、使用時間の多さではなく、見張られていたという事実のほうだからです。記録は上限を出す計算の材料であって、本人を説得するための道具ではありません。本人が自分で開いた数字を、本人の口から聞くところまで待つほうが、結果として早く進みます。
上限が機能するかどうかは、計算の精度では決まらない
決めているのは、減らされるという出来事が、その子に何として届いたかです。上限が引き算で出ていて、記録は本人の手にあり、刻み幅も小さい。条件がここまでそろった2つの家でも、2週目に入ると片方では、何も言わないうちに画面が伏せられるようになります。もう片方では、計算した数字が紙に書かれたまま、初日と何も変わっていません。
使いすぎている自分を人に見られたくない子に届いているのは、数字の大小ではなく「見られた」という出来事のほうです。この子に親が記録を読み上げると、以降その数字は隠す対象になります。記録を最初に開く役を本人に渡し、こちらは聞く側に回る。手順はまったく同じでも、誰が最初に数字を見るかだけで、結果が入れ替わります。
前日と同じ形で1日が流れることを前提に組み立てている子には、別のものが届いています。30分減ったことではなく、昨日までと違うことのほうです。こういう子は、段を下ろした夜に表情から力が抜け、何を聞いても返事が一語で終わります。下ろす幅を15分に落とし、1段ごとの間隔を2週間より長く取る。遅いように見えて、戻る回数が減るぶん、結果としては早く着きます。
3段目を下ろす週になって、同じ家で急に話が通らなくなることがあります。前の2段はほとんど抵抗なく通ったのに、今回だけ机に着く前で止まる。こういうときは、幅や手順を疑う前に、その週そのものを見てください。人には、生活の形を組み替えるほうに力が向く時期と、今ある形を崩さずに内側へためる時期があります。後者で段を飛ばすと、残るのは上限の数字ではなく「変えられた」という感覚のほうになります。
この記事のポイント
上限は、決めるものではなく引き算で出るものです。出てきた数字が守られるかどうかは、記録を最初に誰が見るかと、下ろす幅をどれだけ小さくできるかで変わります。何時間が正解かを探すより、この2つを先に決めるほうが早く落ち着きます。
ここで足りていないのは、言い方の技術ではありません。目の前の子が何に反応するのかという、こちら側の見立てです。見立てが先にあると、上限を引き直す回数そのものが減ります。スマホに限らず、勉強や生活の場面で行動が止まったときに家庭の側で何を動かせるのかは、勉強・スマホなどの行動課題に領域ごとに整理してあります。勉強の場面で親がどこまで手を引くかは、中学生が勉強しないときの距離の取り方で扱っています。
よくある質問
中学生が1日中スマホを使うのはどうですか
使っている長さより、眠る時刻と翌朝が崩れているかどうかで判断してください。予定の入っていない休日に長くなること自体は、どの家庭でも起きます。手を入れたほうがよいのは、眠る時刻が後ろにずれ続けている場合と、食事や入浴が後回しになり続けている場合です。長さを削る前に、眠る時刻だけを先に固定して1週間見てください。
スクリーンタイムは何時間からやばいですか
何時間からという一律の境目は、公的な資料にはありません。厚生労働省の睡眠ガイドが紹介しているスクリーンタイムの目安は1日2時間以下ですが、これはテレビも学校の端末も含めた画面全体の時間です。家庭で見るのは数字より、睡眠が8〜10時間取れているか、朝起きられているかのほうです。眠れない夜や朝起きられない日が続き、学校に行きづらくなっているときは、時間のルールの問題として扱わず、担任の先生やスクールカウンセラー、自治体の教育相談窓口に相談してください。心身の不調をともなう場合は、医療機関の受診も検討してください。
中学生のスマホの使用時間は、文部科学省の調査では何分ですか
中学校3年生の平日の平均は1時間56分です(令和6年度)。文部科学省・国立教育政策研究所が全国学力・学習状況調査にあわせて行った保護者への調査の数字で、設問は「普段(学校のある日)、1日のうち何時間程度、携帯電話やスマートフォンを使っていますか」です。令和3年度は1時間36分でした。同じ資料では、スマートフォンの使用時間が一定程度を超えると調査のスコアが低下する傾向も示されていますが、これは同時に見られる傾向であって、スマホが成績を下げたという因果を示したものではありません。











